語られないもの~福島三部作第三部『2011年:語られたがる言葉たち』(配信)

 福島三部作第三部『2011年:語られたがる言葉たち』を配信で見た。

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 2011年3月11日の大地震から始まり、震災による原発事故で避難した人たちを取材する福島のテレビ局の様子を描くことで、語るべきだが非常に語りにくい震災と原発事故の被害、そしてその後に続く福島県人に対する差別の体験を浮かび上がらせるものである。前作で双葉町長になった忠は死の床にあり、忠が幻影などを見ながら弱っていく様子は第二部の犬のモモの死の描写と呼応している。

 最初の地震の描写がかなりリアルでショッキングである(これ、撮影のカメラをわざと揺らしてる?)。その後は避難した福島県の人々が放射線について行ういろいろな思索や発言、体験をテレビ局の取材の経緯を通してさまざまな形で提示し、こういう体験が一般化してふつうの報道で伝えられるようなものではないこと、そしてつまりは一本の芝居で伝えられるようなものですらないこと、しかしながらそれでも何らかの形で少しずつ語るべきものであることを示している。

 ただ、放射線と女性の生殖をめぐる言説があんまり相対化なしに提示されていること(これは私が原発事故の後、ずっと非常に居心地が悪いと思っていたことだ)については平板さを感じた。放射線の影響について女性が自分が生む子供との関連で不安を感じるというのはまあそうなのだが、女性にそう考えることを強いている日本社会の状況については本作は掘り下げておらず、これこそ「語られないもの」になってしまっている。日本社会は女性を産む機械扱いしがちで、女は当然子供を産むものだという社会通念が存在しており、さらに健康な子供を産めという強い圧力が母親にかかっているのだが、それについてこの作品は問いかけていない。個人的には、このへんが掘り下げられていない女性陣よりも震災で妻と娘を失った双葉町出身の男性である荒島のほうがうまく描かれているのではないかと思った。

 

戯曲 福島三部作

戯曲 福島三部作

  • 作者:谷 賢一
  • 発売日: 2019/11/10
  • メディア: 単行本