自由自在な動きという幻想~『アメリカン・ユートピア』

 スパイク・リーがデイヴィッド・バーンのショーを撮った『アメリカン・ユートピア』を見てきた。

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 ブロードウェイでの公演を撮ったコンサート映画なのだが、全体的に全くコードをつないでいない楽器を持ったミュージシャンやダンサーたちがおおむね裸足でかなりしっかりした振付で舞台を動き回る、けっこう本格的な舞台らしいショーを撮った作品である。上記のウェブサイトの映画解説には「自由自在にミュージシャンが動き回る」とあるのだが、これは幻影…というか、全体的に振付はめちゃくちゃしっかりしていてみんなよく練習していると思われるし、おそろいのスーツもビシっとしていて、自由自在に見えるためにはすごく綿密な計画が必要なんだろうな…と思う舞台だった。たまにバズビー・バークレーかと思うような一糸乱れぬ群舞もあり、デイヴィッド・バーンはもう60代後半なのに歌もダンスもトークも完璧にこなしていて、すごい体力だと思った。スパイク・リーは舞台を撮るのは昔から得意なのだが、これもダンスのところはきちんと上から撮るなど、客席から見えないような形で動きをとらえるツボをおさえている。数カ所だけ、もうちょっと引きでお客の反応もうつしてほしいと思うところもあったが、だいたい上手に撮っている。

 最後はけっこうちゃんとスパイク・リーの映画になるところも面白い。それまではずーっと舞台を撮っていたのに、バーンがジャネル・モネイのプロテストソング"Hell You Talmbout"を歌うところで、ひとりずつ別カットで歌詞に出てくる殺されたアフリカ系アメリカ人の人たちの名前と顔写真を出している。こういう編集のやり方はいかにもリーらしいと思った。