踊ることの重要性~『ルナサに踊る』

 ゲイト・シアターでキャロライン・バーン演出『ルナサに踊る』を見てきた。ブライアン・フリール作の有名な芝居で、日本で2回見たことがある。

 セットは紗幕の後ろに麦畑みたいな風景が広がっており、紗幕の右側にあるドアの形の穴から出入りすることができる。紗幕より前側はマンディ家の屋内の設定で、ちょっとした家具がある。舞台前方に柱が建っていてそこから屋根の輪郭みたいな棒が出ている…のだが、私はこの柱は視界を遮るだけでわずらわしいので正直、全く要らないと思った。

 全体的にタイトルにもあるダンスが非常に強調された演出である。第一幕で姉妹が踊るところは、小麦粉を散らしながらかなりダイナミックにマンディ姉妹が踊っていて、非常に動きのある演出だった。終盤ではジェリー(ジャック・ミード)が姉妹たちとラジオの音楽にあわせて静かに踊るところが丁寧に描写されており、序盤の荒っぽい踊りと対比をなしている。

 前に日本で見た時はどうもテネシー・ウィリアムズかなんかの芝居みたいなアメリカ演劇っぽい演出であまりピンとこなかったのだが、ダブリンで見ると全然アメリカ演劇っぽくない…というか、ド田舎でも楽しいことはある、でも人生はどん詰まり…みたいな雰囲気がちょっとダークでオフビートなユーモアとともに語られる話で、非常に奥行きのあるアイルランド的な芝居だという印象を受けた。全体的にくできたプロダクションなのだが、むしろこういう完成度の高い上演を見て、私はあまりブライアン・フリールの芝居が得意でないのかもしれないと思った。非常によいとは思うのだが、なんかあまりそれ以上にここが好きとかここに引っかかるというところがないので、たぶん好みの問題だと思う。