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男性の気持ちと足の形~『リアル・ペイン~心の旅~』(ネタバレあり)

 ジェシー・アイゼンバーグ監督作『リアル・ペイン~心の旅~』を見た。

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 同い年のいとこ同士であるユダヤ系のデイヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)とベンジーキーラン・カルキン)は、亡くなったおばあちゃんの遺志でポーランドでのホロコーストヘリテージツアーに参加することになる。妻子がいてそこそこ仕事でも成功しているデイヴィッドはシャイでもの静かで神経質だが、ベンジーはとても社交スキルが高くてチャーミングである一方、むら気で不安定なところがあり、正反対の性格のふたりである。ツアーの間、ベンジーは他のツアー客と仲良くなるが、一方で何度か感情を爆発させてデイヴィッドに非常に居心地悪い思いをさせる。

 抑えた演出と脚本で丁寧に主人公二人の心情を描きつつ、コミカルで笑えるところもたくさんあり、大変よくできた作品である。視点人物はデイヴィッドなのだが、ベンジーの社交スキルの高さについていけなくて戸惑ったり嫉妬したりする一方、ベンジーがいきなり「そこで?」みたいなタイミングで感情を爆発させると対処できなくてものすごく肩身の狭い思いをするデイヴィッドの様子が少ないセリフでうまく表現されている。一方でベンジーを演じるカルキンの演技もすごく、こんなに人を困らせるようなことばかりしているのに全体的には他のツアー客に良い印象を与えているというなかなか難しい役柄をうまくリアルに演じている。

 まったく違う性格の二人だが、どちらにも共通しているのは、お互いに対する愛情や思いやりをあまりうまく表現できないということだ。これは『幸せへのまわり道』なんかでも扱われていたのだが、けっこう男子文化に根ざした問題…というか、男性同士で気持ちを打ち明け合う習慣があまりなく、むしろそういうことは「女々しい」とされるせいで男性のメンタルヘルスに悪い影響が及んでしまう。この映画では、お互いいろいろ問題はあってもちゃんとお互い肉親として愛し合っているということをうまく言葉に表現できないがゆえに、最後の最後にとんでもない動作(これがすごく変な動作なのだが)で表現するというところがある、セリフで説明するのではなく突飛な行動で双方への思いやりを表現するというのは、「それはダメでしょ!」みたいにツッコめてしまうところも含めてとてもよくできていると思った。

 また、この映画では足が重要である。序盤でベンジーがデイヴィッドの足(legじゃなくfootの部分、足首より下)がおばあちゃんに似ていて綺麗だと褒めるところがある。そのせいでデイヴィッドが何度か自分の裸足の足を見るという場面があるのだが、だんだんこの足はデイヴィッドがおばあちゃんから受け継いだ家族の遺産みたいなものとしてとらえられるようになる。そして終盤のマイダネク収容所訪問のところで収容者のものだった大量の靴が展示されているところが映される。ふたりのおばあちゃんはホロコーストサバイバーだったので、おばあちゃんも綺麗な足から靴が剥ぎ取られてつらい思いをしたのだろう…ということを想像させる映像になっており、だからこそデイヴィッドがその足をおばあちゃんから受け継いでいるのは大事なのだ…と思えてくる。小さい描写だが、こういうモチーフの使い方がとても上手な作品である。