エレーナ(フローレンス・ピュー)は姉ナターシャの死後、影で暗殺やら証拠隠滅やらをするような仕事に虚しさを感じ、雇い主であるCIA長官ヴァル(ジュリア・ルイス=ドレイファス)にこの種の仕事はもうしたくないと申し出る。最後の任務を果たすべく向かった先で3人の他の暗殺者に出会し、どうもヴァルの策略で全員お払い箱にされる予定だったらしいことが明らかになり、さらに昏睡のような状態から目覚めた民間人らしいボブ(ルイス・プルマン)が突然出てきて大混乱になる。一方、ヴァルは弾劾に直面していた。
完全なネタバレになるが、けっこう明確に双極性障害とそのピアサポートに関する話になっている。ボブはおそらく以前から重い双極性障害に悩まされていたと思われるのだが、ヴァルの会社が実施していたセントリー計画なる実験の被験者となって唯一生き残り、スーパーパワーを得る。あまりきちんと説明されていないのでよくわからないのだが、どうもこの重い双極性障害のおかげで他の人は死んでしまった実験を生き残ることができたのだと思われ、持病のせいでひとりだけスーパーパワーを得られたというのはちょっと面白いな…と思って見ていたのだが、双極性障害の人のサポートなんていうことは全く意に介しないヴァルのせいで病気がどんどん悪化し、躁状態(セントリー)の時はオレ最高!気分で大暴走、鬱状態(ヴォイド)では制御不能で手当たり次第に人を虚空のようなところに送って消してしまう、『もものけ姫』のタタリ神みたいな存在になってしまう。このまんまだと双極性障害をネガティブに描いただけのしょうもない話になってしまうではないか…と不安になりつつ見ていると、自らもある種の呪い(洗脳や暗殺者としての来歴による激しい心的トラウマ)を受けた存在であるエレーナがアシタカよろしく自らを犠牲にする覚悟でボブを助けに行き、それぞれメンタルヘルスのトラブルを抱えているワル仲間たちも合流して全員の力で事態を収拾…ということで、メンタルの病気で一見取り返しのつかないくらいひどいことになっても、同じ問題を抱える者同士のピアサポートがあれば回復は可能である…というえらいポジティブな内容になっている。双極性障害の人がそのまんまスーパーパワーを持った超人として出てきて、別に完治するでもなくまあなんとか病気と付き合いながら暮らそうとするというのもリアルで良い。
諸刃の剣だなと思うのはエレーナのキャラクターである。フローレンス・ピューの演技のおかげもあってエレーナは極めて奥行きのある面白いキャラクターになっている。ヴォイドが作った全てをのみ込む闇に自分からフラっと入っていくところは表情と相まってけっこうショッキングである。やっていることは『もののけ姫』の高貴な青年であるアシタカとほとんど同じで、自らにかけられた呪いを引き受けて人々のために呪いの広がりを抑えようとするという英雄的な役柄なのだが、一方で見方によっては「相変わらずMCUでは女性がケア要員に…」みたいにも解釈できる。ピューの演技があんなに上手でなければけっこうわざとらしいイヤな感じの役柄になっていた可能性も高い気がする。
なお、オチはかなり適当…というか、ヴァルの弾劾はどうなったんだとか、君らはワイルドな変人の集まりなのに「ニュー・アベンジャーズ」なんていう二番煎じの名前でいいのか、「サンダーボルツ」のほうがずっとカッコよくないか…??とか、いろいろ疑問のある落とし方である。なお、私は『サンダーボルツ*』というタイトルは大嫌いである。仮題であることを表しているらしいのだが、私の第一印象は「何なんだそのワイルドカード検索みたいなアステリスクは」だった。なんか気取ったタイトルだと思う。