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政治腐敗や独裁について考えさせられるドキュメンタリー~『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』(試写)

 アレクシス・ブルーム監督『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』を試写で見た。

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 ベンジャミン・ネタニヤフの汚職捜査の過程でリークされた通称ビビ・ファイルズと呼ばれる警察尋問映像ファイルをもとに、ネタニヤフの汚職の実態を描いた作品である。汚職捜査だけではなく、ネタニヤフの個人的な来歴や交友関係などもいろいろな角度から解説し、どういう政治的土壌からネタニヤフが生まれてきたのか、あまり知識のない視聴者にもわかりやすいように背景知識を提供している。有名な映画プロデューサーであるアーノン・ミルチャンイスラエルのためにディーラーとして働いており、かなりネタニヤフ周りの人々と近かったこととか、あやしい人脈の話もたくさんある。全体的に、ネタニヤフがパレスチナの人々に対して非常に悪辣で不合理な攻撃を仕掛けているのは自分の汚職から世間の目をそらすためであり、扇動・独裁によって腐敗の追求を避けようとしているのだということが描かれている。

 一番見ていて興味深いと思ったのは、自分が住んでいたベエリのキブツハマス戦闘員に襲撃され、虐殺の対象になったというキブツ育ちの若者ギリさんのインタビューである。ギリさんはキブツが襲撃されて多数の人が死んだことにショックを受けているが、ネタニヤフの強硬政策には全く賛同しておらず、むしろネタニヤフのせいで自分たちのような境界線に近い地域の住民が危険にさらされていると考えている。こういう意見に触れる機会はあまり日本語のメディアでは少ないことだと思うし、ギリさんの冷静で知的な分析も非常に興味深いと思った。