小学生くらいの女の子がスーパーヒーローとなって悪党を惨殺する『キックアス』(Kick-Ass)を見てきた。

 マーヴェルコミックの映画化、『キックアス』(Kick-Ass)を見てきた。

 先日書いたように、この映画では本棚のあるコリドールでアクションする場面があるので、コリドールの奥にはもっとすごいライブラリーがあってそこで対決がある…のかと思ったら、肝心の悪の組織のリーダーの書斎は結構ショボかった。所詮、この映画の悪の組織は麻薬組織であまり教養とか理念がないただの悪党の集まりなので、この程度のもんだ。がっくり。


 …とはいえ、この映画は全体的にはスピーディでよく考えて作ってあってかなり面白かったし、わざと公序良俗に挑戦するような過剰な描写を入れてるところもちょっとキャンプな感じで、スーパーヒーロー映画のパロディとしては大変よくできていると思う。ただし、全く一般客にはおすすめできない。とりあえずヴァイオレンス描写がすごすぎるし(『キル・ビル1』なみ。血は飛ぶわ人体は破裂するわ大人が子供を殴打するわ、まあひどい)、そのヴァイオレンスの主な担い手が小学生くらいの少女である。しかもこのスーパーヒロイン、ヒットガールのしゃべる言葉はサウスパークなみである。とりあえず、サウスパーク(とくにメカストライザンドvs巨大化したロバート・スミスの回)を実写にして女の子がやってると思ってもらえればいいかも(??)。



 日本公開のめどがたってないらしいので一応お話を書いておくと、これはアメコミおたくでぱっとしないダメ高校生であるデイヴのお話である。デイヴはカツアゲにあったのに目撃者が助けてくれなかったことをきっかけに、人助けをするスーパーヒーロー業を始めることにする(なんか緑のコスチュームを注文してそれを着て夜回りするのだが、このコスチュームがダサすぎで、スーパーヒーローの衣装というよりはデザインと縫製をミスった競泳用水着みたいに見える)。デイヴは弱いのでチンピラと戦ってお腹を刺されてしまうのだが、それをきっかけにゲイ疑惑が沸騰(恥ずかしくてスーパーヒーローのコスチュームを隠し、裸で倒れていたという噂が広まったため)。同じ高校に通っている意中の美女ケイティはデイヴのことをてっきりゲイだと思いこみ、女友達扱いしはじめる(…しかしながらデイヴはケイティとつるんでいたいのでゲイのふりをする)。それでも頑張ってデイヴはスーパーヒーロー「キックアス」業を続けるのだが、ある日チンピラと戦っているところがYouTubeにアップされたせいで突然アメリカで超有名人に…
 一方、過去に自分を無実の罪で投獄し、妻の自殺のきっかけを作った麻薬組織の大物フランクに復讐を誓ったニコラス・ケイジは小学生の娘、ミンディを英才教育でスーパーヒーローに仕立て上げる(…なんか全く脈絡がないのだが、とにかくそうなのだ)。防弾チョッキで親父に銃弾をあびせられたり、誕生日にナイフをプレゼントしてもらったりして、ミンディはすごく強い子に育った(…)。二人はビッグ・ダディ(バットマンっぽい)とヒットガールとしてフランクの手下どもを殺害しはじめるが、デイヴはそれに巻き込まれてしまう。デイヴを手下殺しの犯人と思ったフランクは、息子クリスの提案でクリスをニセヒーローのレッドミストに仕立て上げ、デイヴに近づかせるが…


 …それで、まったくこの映画はそのまま作るとえらく少女愛的な映画になりそうなのだが、そのへんできるだけうまく回避しているところが巧妙なような気もした。とりあえず主人公のデイヴがやたら年増女が好きだということが最初のほうで非常に強調されているので(あれはどうやらデイヴが妄想ばかりしているということを示す以上の意味があるようだ)、デイヴとヒットガールの関係に全くロリータ式の連想が働かないようになっている。

 ヒットガール役は『(500)日のサマー』でトムの妹役だったクロエ・グレース・モレッツなのだが、大変な芸達者で、明らかにデイヴよりしっかりしていて、この映画でも前作同様ダメな兄と立派な妹みたいな感じになっている。どうやらクロエは「ギークな兄より明らかにしっかりしている妹」の役が板に付いてしまったらしい。アクションはキレがあるしとてもカッコいいんだけど、こんなローティーンの女の子が大人を殺害しまくるとは、全くすごいブラックユーモアだ。スーパーヒーローってなんかヘンな設定の奴が多いと思うんだけど、それを思いっきり逆手にとって「ここまでやるか」みたいにした感じ。


 全体としてこの映画は最近やたら作られているスーパーヒーロー映画をとことんまでパロったものなので、パロディはパロディとして笑って見るのがいいだろうと思うし、あまりスーパーヒーロー映画を見てない私でも面白かったということはたぶんアメコミに対して漠然としたイメージしかない人が見ても楽しめるくらいにはわかりやすいパロディになっているのでは…と思うのだが、さすがにニコラス・ケイジが父親の権力を用いてヒットガールを洗脳するところとか、あと最後の安直な終わり方はちょっとどうかと思ったなぁ…ああいうプロットがアメコミではどの程度一般的なのかわからないのだが、あれも何かのパロディで、笑って見るべきところなんだろうか。ひょっとしてアメコミのスーパーヒーローって、子供の頃に英才教育を受けて年取ってからその後遺症で悩んだりとかするの?


 …なお、個人的に面白かったのは、高校のプリンセスであるケイティがデイヴがゲイだと知ったとたんに優しくなるところである。あの描写はたぶん、ラブコメ映画でオシャレなヒロインにはたいていゲイの友達がいるというのが念頭にあって、それをパロっているに違いない(ケイティがデイヴと二人で部屋で化粧したりするところとか、明らかにそう)。なお、町山智浩さんがこのポッドキャストでケイティは腐女子だと言っているが、これはたぶんちょっと違っていて、正確にはケイティは腐女子ではなくてファグハク(「おこげ」?ゲイの男性とつるみたがる女性を性的指向とは無関係に指す言葉)である。ケイティはコミックが好きみたいだが別に自分でスラッシュフィクションを書いているとかそういうわけではないみたいだし、スラッシャー(少々ニュアンスが違うが、現状では「腐女子」に最も近い英単語)は別に実生活ではゲイピープルとつるんでないことも多いと思うが、ケイティみたいにゲイと友達になりたがるのはファグハグだ。


 なお、この映画はとにかく音楽の使い方がうまい。デイヴがレッドミストに嫉妬して鏡の前でマントをつけてみる場面でスパークスの"This Town Ain't Big Enough for the Boss of Us"が流れるところはそうきたかって感じだし、ヒットガールがコリドールでアクションするところでジョーン・ジェットの"Bad Reputation"のカバーがかかるところも良い。あと、ラストに流れる"Make Me Wanna Die"を歌っているプリティ・レックレスというバンドは買いかもと思う。リードヴォーカルは『ゴシップガール』主演のテイラー・モムゼンらしいのだが、ダミ声ヴォーカルでちょっとコートニーを思わせるとこがあるので、今後アイドルっぽくなるのを避けて成長すればかなり良いバンドになるかもしれない。


 あと、この映画、なんと主題歌はミカ!ビデオでミカがメガネのオタク姿を披露。



  …あと、全然関係ないけど、今日CMでやってた『スコット・ピルグリム対世界』っていう映画、面白そうだと思った。『ホット・ファズ』のエドガー・ライトが監督で、『ジュノー』でヒロインの頼りない彼氏だったマイケル・セラが主演らしい。ボンクラのスコット・ピルグリムがすごく可愛いガールフレンドと結ばれるのだが、そのガールフレンドの元カレ(たぶん元カノも)が全員ものすごい悪党でスコットを次々に襲ってくるという話らしい。