『ホーリー・フライング・サーカス』(Holy Flying Circus)〜モンティ・パイソン『ライフ・オブ・ブライアン』公開時の騒動をめぐるテレビドラマ

 モンティ・パイソン『ライフ・オブ・ブライアン』公開時の騒動をめぐるテレビドラマ『ホーリー・フライング・サーカス』(Holy Flying Circus)を見た。普段全くといっていいほどテレビを見ない私だが、今回ばかりは見ないとと思ってBBC4オンラインでチェック!(ここで見られるのだが、たぶん英国国内からしかアクセスできない?)『ライフ・オブ・ブライアン』は1979年の映画で今では古典的コメディ映画と見なされているが、キリストの生涯を痛烈に諷刺しているということで公開当時は凄まじい反対運動があり、"Most Controversial Films Top 10"とかには必ず選ばれる映画である。


 このテレビドラマは映画が完成した時から、パイソンズがクリスチャンチームとテレビ討論で戦うまでを描いた歴史もの…なのだが、なんてったってパイソンズが主人公ということで演出が異常にふざけており、現実のパイソンズの再現というよりはテレビに出ている時のパイソンズの人格をもとに面白おかしくフィクションを組み立てている感じで、ジョン・クリーズは作中自分で「このドラマではフォールティ・タワーズのバジルみたいなキャラになってて…」とか言うし、テリー・ギリアムはあらゆるものをアニメにしようと企んでいるし、グレアム・チャップマンはパイプばかり吸ってるし(そしてパイソンズの面々はみんなすごくちゃんと顔を似せてる)、「マイケル・ペイリンの妄想」カット等脱線お遊びシーンも多数。人形のジョン・クリーズマイケル・ペイリンライトセイバーで戦う場面は全ジェダイ必見である。とにかくそういう小ネタの気が利いているので、まあモンティ・パイソンを全く見たことない人は戸惑うかもしれないけどファンには面白い。


 このドラマはかなり脚色が入っているので大袈裟に描いていると思うのだが、クライマックスになっている、BBCの番組『金曜の夜、土曜の朝』がパイソンズ対クリスチャンチームの討論をセッティングし、クリスチャンチームが罵詈讒謗ばかりでちっともまともな批判をしないので余計収拾がつかなくなったというのは本当らしい。このBBCの番組プロデューサーは超いいかげんな人に描かれているのだが、そういう討論番組をやるということ自体は実に炯眼だと思ったな…まああの映画で敬虔なクリスチャンが抗議をしてくるのは当たり前だろうと思うし、一般的に議論を呼ぶような芸術作品について作り手と抗議する側を公開討議させるというのは政治的にも審美的にも良いことだと思うのでどんどんやったらいいと思うのだが(平和的なやり方で賛否両陣営が議論を戦わせるのは民主主義の醍醐味だし、鑑賞者が批判をして作り手がそれに答えるというのはコメディに限らず良い作品を作るのに役立つプロセスである)、まあ誇張されているにせよクリスチャン側が罵詈讒謗ばかりでまともな批判をしなかったというのは反対派陣営全体の見識を疑わせるような結果になったと思う。クリスチャンでももうちょっと映画とか神学がわかるような人を呼んで、映画をきっちり見て細かい象徴体系をネチネチとあげつらって作り手の意図を問うような議論を展開していたらもっと実りある討論番組になったと思うのだが…結果的にクリスチャンチームが全くまともな議論をしなかったせいで、議論はモンティ・パイソンチームの圧勝のように見える。


 なお、ネタバレになるので詳しくは言わないが最近まさにQIの原爆問題で批判されたスティーヴン・フライがちょっとだけ出てて実にいい味を出している(原爆問題の時は不愉快だったがうちはフライのことは非常にいい役者で面白いコメディアンだと思う)。BBCの番組だと『トップ・ギア』もメキシコ差別発言で批判されたし、まあこのへんは批判を受けて当然というかしょうがないと思うな…ネットのなかった時代にBBCが売っていたのはドュメンタリーと一部のヒット番組が中心で国内向けバラエティ番組とかは世界市場を想定してなかったと思うのだが、今ではBBCの番組は(おそらくは全体的に質が良いと見なされているので)完全にグローバルコンテンツになっていて、YouTubeに字幕付きですぐ流れる。昔ならエスニックジョークやらなんやらマイノリティをネタにした冗談も国内だけだからそれほど見て抗議する人も多くなくて問題にならなかったんだろうが、今ではすぐに世界中の人が見てメールで抗議できるようになったから問題になりやすいんだろう。このへんはBBCも試行錯誤で適応するしかないんじゃないかと思うし、ある程度建設的な批判がないと番組も良くならないだろうし…(日本のテレビ番組も、バラエティ番組とかが字幕付きでYouTubeに流れるようになったら結構ヤバいんじゃないかと思うこともある)。


 まあそんなわけで検閲と芸術作品の歴史についていろいろ考えさせられつつ面白いドラマだったわけだが、ひとつ疑問なのはあのチックと吃音症の人はイギリス人は見てて面白いの…?うちの英語が下手なせいか、全然面白くなくてむしろなんか言語障害をネタにしてるみたいで不快だったんだけど…前にオールドヴィックで見た『耳に蚤』が吃音症をネタにしててやっぱり全然面白くなくて不快だったので、ちょっと神経質になってるだけかな…?