バービカン『ハムレット』〜これがドイツだ!地獄に堕ちたデンマーク王族ども

 バービカンでドイツのシャウビューネの『ハムレット』を見てきた。ワケわかんないけどすごい迫力で「これがドイツか…」という感じ。

 とりあえずこの上演は結構テクストをバラバラにしており、しょっぱなから"To be, or not to be"独白が放送される。その後もこの独白が二回くらい出て来たりとか、あと原作にはない前王の埋葬場面などを舞台で見せたりとか、はたまた結構役者のアドリブによる脱線もあり、原作に忠実っていう感じではない。しかしながら非常にちゃんとハムレットしていることはしている。

 演出は非常に奇抜で、舞台の前面には土(のようなもの)が敷かれており、後ろ側の台(これは可動式、場面によって前に動いたり後ろに下げられたりする)に宴会用のテーブルが置かれている。真ん中にはビーズすだれのようなものがかかっていてこれがスクリーンのかわりになり、役者の顔をカメラでクローズアップしてここにうつしたりできる。台詞の半分くらいはマイクを通して言うようになっている。全編ブラックユーモア満載で、演出家はどうもこの話を悲劇というよりはグロテスクな血みどろのコメディと考えているようで、ふつうの『ハムレット』なら到底笑いが起きないような場面(独白場面とか)でお客さんが爆笑する。

 それでまあハムレット役のラース・エイディンガー(アイディンガー?Lars Eidinger)は結構すごい。頭のてっぺんがハゲていて腹も出ていて到底sweet princeとは言えないような中年男のハムレットなのに、舞台中所狭しと動き回ってなんかものすごいパワーと気迫がある(ガードルードの"he's fat"の台詞では笑いが漏れていたが、たぶんわざと腹が出てる衣装にしてる)。このプロダクションのハムレットはマザコンの甘やかされたダメ人間ハムレットで、やることなすこといちいち素っ頓狂だしたぶん本当に狂気にやられていると思うのだが、そういうもともと「たがが外れた」人間がさらにたがが外れてしまったデンマークをどうにかしないとという話になるあたりが面白い。

 ちなみにこの上演のハムレットはかなりマザコンで、そもそもガートルードとオフィーリアがダブルキャストである。同じ女優さんで、ブロンドのかつらをつけている時がガートルード、かつらを外してブルネットになるとオフィーリアになる。まあこういうマザコン解釈はどうかと思うこともあるのだが、ドイツのプロダクションだしいいんじゃない?(←偏見)

 劇中劇の『ねずみとり』(すごいエログロになってた)は旅役者じゃなくハムレット本人が女装して演じるようになっているのだが、この場面は『地獄に堕ちた勇者ども』のヘルムート・バーガーが女装する場面に結構にている。そもそもこの映画は『マクベス』と『ハムレット』に強い影響を受けているはずなのでまあ似ているのは当然といえば当然かも。しかしながらガートルードとオフィーリアをダブルキャストにしたせいで劇中劇の場面でオフィーリアが登場しないのはちょっと不満だったな…この場面のオフィーリアは観客の視点を体現する役柄だと思うので、カットするとやや物足りない。

 とりあえずダブルキャストとかあまりにも血が飛び散るところ、またしつこい繰り返しでコミカルな効果を狙ったりする演出についてはちょっと私は疑問があったのだが、全体的には大変面白かった。ちょっと奇抜でよくわからないところもあったのだが、とてもオススメ。