ナショナルポートレイトギャラリー「亡き王子〜ヘンリー・スチュアートの生涯と死」(The Lost Prince: The Life & Death of Henry Stuart)展

 ナショナルポートレイトギャラリーで「亡き王子〜ヘンリー・スチュアートの生涯と死」(The Lost Prince: The Life & Death of Henry Stuart)展を見てきた。これはジェームズ一世(六世)の長男で、将来を嘱望されながら若くして亡くなったウェールズ公ヘンリー・スチュアートの人生を肖像画や文書、本人の遺品である絵、死後に出版された追悼の詩の刊本などを使って追っていくというもの。それほど展示品は多くはないが非常によくまとまっており、ヘンリーの生涯、それをとりまくルネサンスイングランドの文化、はたまた今も昔も変わらないこういう文武両道の薄幸の貴公子に対する英国人のロマンティックな思い入れなどが垣間見える楽しい展示である。

 ↓これがチラシにもなっているヘンリーの肖像画。さわやかイケメンとして17世紀初頭のイングランドスコットランドでは庶民の間でも大変人気があったらしい。

 とりあえずだいぶ美化してあるのだろうが肖像画ではどれも実に颯爽としているがあまりマッチョすぎずにインテリ風で男にも女にもモテそうだし、所有していた絵のコレクションとかもかなり趣味が良く、若いながらも自分のパブリックイメージに非常に気をつかっていたらしいことが伺われる(こういう自分のパブリックイメージをきちんと認識する技術は先代のエリザベス一世に似ているかも)。亡くなった時はエリザベス一世の死をしのぐくらい大規模な葬儀が行われ、多数の追悼出版物が出たというあたりはダイアナ妃を思わせるところがある。ちなみにこのヘンリー王子と妹のエリザベス(のちにボヘミア王妃)は敬虔なプロテスタントで明るく知的というイメージがあり国民に人気があったのだが、次に王太子になったチャールズ(のちのチャールズ一世)は政治もメディア操作もヘタクソだったため、皆様ご存じの通りイングランド内戦が起こって1649年に公開処刑されている(死んでから殉教者になって、やっとメディア操作がうまくなった…のか?)。そういうわけでヘンリー王子が若死にしなければすくなくとも在位中は内戦が起きなかったのでは、などと取り沙汰されている。

 ↓ちなみに、すごいタイトルだがイェイツのこの本とかはこの時代のことを扱っているものである。