思ったより面白いが、元UK在住者としてはかなり眉に唾〜足立基浩『イギリスに学ぶ商店街再生計画―「シャッター通り」を変えるためのヒント』

 足立基浩『イギリスに学ぶ商店街再生計画―「シャッター通り」を変えるためのヒント』(ミネルヴァ書房、2013)を読んだ。

 えーっと、まずこの本、最近UKに住んでた人ならおおかた「?」と怪しむと思う。まずリンク先のアマゾンの惹句を見て頂きたい。

イギリス地方都市ではなぜ「シャッター通り」がほとんど見られないのか。本書は、日本と同じく島国であり政治制度が類似しているイギリスの都市再生“成功の秘訣”を探り、日本と比較することで、「シャッター通り」化が深刻な日本の新たな商店街再生策を打ち出す。「商店街vs.郊外型の大型店舗」という旧来の構図を打破し、「個性を活かした都市再生」の視点から両者“共存共栄”の道を示す一冊。

 これ、私のみならずうちのツイッターのいろんなUKクラスタの人が突っ込んでいたのだが、一般の生活者とか旅行者からすると、UKの都市再生が成功しているように見えるのは世界遺産を抱えてるとか昔からの観光地だとかいうような一握りの都市で、あとの街はどこもハイストリートは日本以上にチェーンの店ばっかりで全然面白くなく似たような感じで全く個性も活かされてないし成功もしてないように見える。さらに街によっては再開発で昔からのパブとかつぶしてオシャレげなカフェやバーにしたら不景気をくらって閑古鳥とか、私が住んでた西ロンドンなんかは再開発のためにやっぱり昔からあるパブがつぶされかけて地元住民の反対運動が起きたりとか、とにかく都市の再開発とかいうものに対しては一部を除いていいイメージが全くない。つまり、この本の前提を全く共有してない。ということで読む前からむちゃくちゃ不安だった。

 で、読んでみたらまあ読む前よりはだいぶマシな本だと思った。なんといっても各地の再開発事例が非常にわかりやすく豊富に紹介されているし、一般人にはわかりにくい資金の流れや都市開発関連の各種制度などがコンパクトに説明されている。土地柄によっては中心市街地商業施設vs郊外大型店舗、という図式的なモデルが通用しないところもけっこうあり、こういう対立構造にならずに発展している都市もある、というような話は面白い。

 しかしながら、全体的にUKの各地の取り組みをただ褒めるだけで、あまり具体的な成果がわかりにくくポジティヴすぎるのが信用できない気がした。例えば、最初の紹介では日本では空き店舗率が上昇しているにもかかわらずUKでは中心市街地の民間投資が近年上昇している、という話をするのだが(p. i)、なぜそこで空き店舗率同士を比べないんだ、派手なデータでごまかしてないか…と思ってしまう。あとでUKの空き店舗率とかも出てくるのでそんなに大きくごまかしてるとかではないと思うのだが、全体的にけっこう派手な成功例ばかり出してきてやたらUKの都市が活性化してるように見せてないか…と疑ってしまう。とくにマーゲートのアートを使った再生事業とか、日本でもアートを使った再生はいっぱいやってるけど結構失敗してたり、成功してても批判あったりするよなぁとか…

 それから前提知識としてもっとハイストリートとかUKの基本的な街のつくりに関する解説を最初のところで入れないと、UKに行ったことない人はイメージがつかみにくいんじゃないかと思った。UKの大きな街というのはhigh streetという中央通りみたいなヤツがあり、ここを中心に街ができている。なお、このhigh streetにチェーンの店が増えまくっていることについては英国人の間でも「クローンタウン」の増加として強い批判があり、こんな報告書まで作られているが、この本はそういうハイストリートの開発まわりを巡る英国での批判なんかはあまりとりあげていないし、またまた再開発によっていろいろな老舗がつぶされることについて地元民の間でも紛争があることも取り上げていないのでなんか偏っている印象を受ける(例えばこれザ・フーがデビュー当時に演奏した店なんかがあるシェパーズブッシュマーケット近辺の町並みが取り壊されることに対する抗議運動の記事。こちらは英国中でパブが減少して、歴史的建築物であるパブまで危険にさらされてるという記事)。

 あと、これはないものねだりだと思うのだが、「これは扱わないんだろうか?」というのが結構あった。趣味の問題だと思うのだが、劇場なんかについての言及は少ないし、あとロンドンと並ぶゲイコミュニティを誇る街として有名なブライトンの再開発がとりあげられてるのにピンクポンド(ゲイピープルの資力)への言及が一切ないのだが、私、むしろ日本で全然活用されてないピンクポンドを用いた都市活性化を紹介したらぐんと面白くなるんじゃないかと思ったんだけど…

 と、いうわけで、いろいろ疑問点はあったのだが、でも思ったほどつまらない本ではなかった。紹介されている事例が面白いので、読む価値はあると思う。