日本からアメリカへ旅する本たち〜『書物の日米関係―リテラシー史に向けて』

 和田敦彦『書物の日米関係―リテラシー史に向けて』(新曜社、2007)を読んだ。

書物の日米関係―リテラシー史に向けて
和田 敦彦
新曜社
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 戦前から戦後くらいまで、日本からアメリカに渡った書籍と、アメリカにおける日本語教育の変遷を組み合わせながら、書物史(本書ではリテラシー史という概念が使われている)的観点で日米関係史を読み解いていくという本である。割合広い話題をカバーしているので、書物史の人はもちろん、日米関係や日本語教育の歴史に興味がある人にはものすごくオススメの本である。

 とりあえず日本(に限らず東アジア諸国)からアメリカに渡った本というのは文字体系が違いすぎて目録を作ったり配架を考えるだけで一苦労だそうだ。たしかに、司書は漢字がわかるとしてもいったいどうやってそれを作って目録を作るのかとか、日本語の本も主題別で英語の本と一緒に配架すべきか、それとも言語別に書架を変えるべきなのかとか、運用の面で頭が痛くなりそうな課題が山積みで、アメリカの大学図書館なんかもそういうところは試行錯誤していたらしい。全部の言語を平等に扱おう!知識はユニバーサルだぜ!みたいな理想主義的意気込みで主題ごとに全言語の本をまとめる配架方式にすると、おそらく日本語の本を最もたくさん使用するユーザである日本研究をしている人があっちこっちで本を探して英語の本の中からぬきださないといけないという手間が増えてかえって不便だということで、これはたしかに目録の理念と運用がうまくあわないという困った問題だろうと思った。時代的に、オンライン目録になってからの検索の問題とかはあんまりないのだが、言語の違いで目録が大変に…っていうのは現代まで続いている問題だと思うので、昔の話でも結構すっと入ってくる。折井善果先生がハーバードで突然キリシタン版を発見したという話がニュースで話題になったことがあったが、おそらくどさくさまぎれにアメリカに渡って未だに目録すらきちんと作られていない本というのは結構あるのだろうと思う。

 他にもいろいろ史料を駆使して面白い史実とそれに対する分析を提供しており、とくに50年代に財閥解体で財産が目減りすることを恐れた三井が、ドルを手に入れようと三井文庫の本を大量にアメリカに売った経緯などが詳しく説明・分析されており、なるほどこういうふうに日米関係と書籍の流通が関わってくるのか…と、大変興味深く読んだ。

↓参考:折井善果さん講演のビデオ。

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