段ボールの岩〜新国立劇場『テンペスト』

 新国立劇場白井晃演出『テンペスト』を見てきた。シェイクスピアの晩年の作『テンペスト』をわりと原作に忠実にやっている。

 非常に奥行きのある舞台に、可動式の台車にのせた段ボール箱を大量に運び込み、それを場面ごとに組み替えて岩やら木やらに見立てて演技をするという演出で、この舞台装置はシンプルなものからいろいろなイリュージョンが生まれてくるという点で大変良かったと思う。欲を言えばもっと奥行きを生かして欲しかったが、まあしょうがないのだろうか。例えば最後のミランダとファーディナンドの出現の場面は、もともとブラックフライアーズでやった時はディスカヴァリー・スペースを使ってやったと思うので、奥のほうから二人を台車にのせて運んでくる、とかのほうが奇跡的な出現という感じが出てよかったような気もする。

 この他にも音楽や踊りをふんだんに使った演出なんかも気が利いていて視覚的にはとても面白いのだが、ちょっとイマイチかなぁ…と思った箇所が二点ある。ひとつめは、まだ二日目だからなのか全体的に台詞回しに流麗さが欠けていたように思えるところ。とくにエアリアルが、幻影を見せる場面で台詞を噛んでしまったのが残念だ。後でプロスペローが「見事だったな!」とエーリアルを褒めるのだが、途中でエアリアルが噛んでしまってはプロスペローの皮肉かと思ってしまう。

 二つめは、あまりこの作品の植民地的、政治的なテーマが前面に出ていないというところ。これは完全に好みの問題だと思うし、『テンペスト』の政治性をうまく処理するのは大変だと思うのだが、前に見た白井晃版『オセロー』同様、視覚的効果優先で原作の政治的テーマを探求する気はあんまりないんじゃないかと思った。せっかくエアリアル車いすに乗せてるんならあれをもっと活用して政治的な要素がもっと出てくるような見せ方にしたらどうか…と思ってしまった。