ウエンツバーティが実に当たり役〜『天才執事ジーヴズ』

 日生劇場で『天才執事ジーヴズ』を見てきた。P・Gウッドハウスの『ジーヴズ』シリーズに登場する、英国人なら誰でも知ってる万能の従者(valet)ジーヴズと、雇い主であるおつむが弱い上流階級の独身青年バーティ・ウスターを主人公にしたミュージカルで、台本をアラン・エイクボーン、音楽をアンドルー・ロイド=ウェバーが担当したらしい。

 お話しとしては、バーティがチャリティイベントで演奏する予定だったバンジョージーヴズに隠され(たぶんものすごくヘタだからだろう)、かわりに昔のトラブルの話をお客さんにする、という枠がある(小道具なども全部ジーヴズが用意して即興劇っぽくこの話をすすめる)。そこで語られる内容は、勝手に友達の名前を使ったことに起因して次々起こるトラブルを最後にジーヴズが解決…というもので、これに英国の上流階級の習慣やら変なアメリカ人の求婚者やらが出てきて、実に英国的な作品である。

 全体的に、話はちょっと緩くて長いと思う。この調子の話なら二時間でいいと思うのだが、2時間40分くらいあって途中たるい。バーティがもともとかなりのゆるいキャラなので、芝居のテンポをもっと速くしてバーティが振り回される様子を強調したほうがさらにバーティのゆるゆる感が出ていいと思うし、そしたら前半からジーヴズの活躍をもっと盛り込めるようにもなって全体的に引き締まると思うのだが…


 ただ、バーティ役のウエンツ瑛士が相当にはまり役で、悪気はないが超いいかげんな上流階級のおバカイケメンを原作のイメージにかなり忠実な感じで(ただし諷刺色は薄めて)演じており、ジーヴズ役の里見浩太朗とのかけあいも非常に息があっており、演技のアンサンブルを見ているだけで十分面白かった。となるとやっぱりジーヴズの活躍が思ったより少なかったところが残念なのだが…

 ちなみに日本語タイトルは「天才執事」となっているが、細かいことを言うようだけどジーヴズは執事(butler)じゃなく従者(valet)である。この区別は難しいのでなかなか私もうまく例をあげて説明することができないのだが、バーティは独身男性で大きな屋敷の長ではなく、ジーヴズはこのバーティ個人に仕えているからvaletとなる(実質的には執事がするような仕事も請け負っているとは思うが)。Butlerというのは世帯(household)を仕切る使用人で、個人に仕える使用人じゃない、ということだと思う。