政治的だが、もっと政治的でもいいと思う〜新国立劇場『三文オペラ』

 ちょっと前になるが、新国立劇場で『三文オペラ』(公式サイトは音が出るので注意)を見た。宮田慶子演出で、新訳を使用している。『三文オペラ』を生で見るのは初めて。

 舞台はヴィクトリア女王戴冠間近のロンドン。悪逆無道だが色男として名高い盗賊の頭目メッキースは、乞食の元締めであるピーチャム夫妻のひとり娘ポリーと電撃結婚することになる。大事な娘が悪党と結婚するのが面白くないピーチャムは、メッキースの古なじみである警視総監ブラウンを脅迫してメッキースを逮捕させようとする。しかしメッキースはこれまた古なじみだった娼婦のジェニーに裏切られるなどいろいろあって逮捕される…が、最後の最後に女王陛下からの恩赦が出て唐突なハッピーエンド。

 いきなり間抜けな音が出るやたらにダサい公式サイトの作りはさておき、内容じたいはけっこう面白かった。両脇に階段を配置し、下の平面だけではなく中間の踊り場みたいなところでもアクションが展開する多層的な演出はかなり見栄えがする。とくにジェニーをはじめとする女性たちの動きが平面と階段の中間部両方で展開されるので、女性たちの動きや歌に視覚的な広がりがある。しかし、前に『肝っ玉おっかあ』を見た時もそう思ったのだが、ブレヒトのお芝居はすごく面白いのだがどこが面白いのかを説明しにくい。たぶん異化効果というところで、盛り上がりそうになったらストンと落とす…というのを繰り返すからだと思うのだが。

 とはいえ、お話じたいが辛辣な諷刺ものなのにけっこう手堅くまとまっており、もっと激しく政治的にしたほうが面白いかも、と思うところはあった。これでも日本のお芝居としてはかなり格差社会や貧困、政治的腐敗などを意識した演出ではあると思うのだが…メッキースがわりと小悪党でもカリスマ的悪党でもなく、ふつうの泥棒っぽく見えたところに原因があるのかな?もっとカリスマ的な泥棒にしていれば、最後の落とし方なんかはもっと格差社会と悪党が栄える理不尽な世の中を諷刺する味わいが深まった気がする。
 
 ちなみに、最後に一言付け加えておくと、この日経の劇評がかなりひどいと思う。「女の嫉妬の怖さを知る演出家の女性的な視点が生きているといえよう」って、イマドキ芸術の批評で「女の嫉妬」とか「演出家の女性的な視点」みたいなクリシェな文言を出してきてほめるのって、何も考えてないのに等しいだろう。