ジェイク・ジレンホールがイケメンじゃない〜『ナイトクローラー』(少しネタバレあり)

 『ナイトクローラー』を見てきた。ダン・ギルロイ監督はこれが初監督作らしい。

 ロサンゼルスに住む主人公のルーことルイス・ブルーム(ジェイク・ジレンホール)はこそ泥暮らしから足を洗い、パパラッチ業を始めることにする。他人の感情に全く配慮しないルーはローカルテレビ局のディレクター、ニナ(レネ・ルッソ)にネタを売りつけ、どんどん成功していくが…

 話だけ説明するとただのパパラッチの話みたいに聞こえるが、この映画はパパラッチ云々よりはとんでもないソシオパスの話と考えたほうが良い。ルーのソシオパスぶりというのは自己啓発とかネオリベラリズムとかが悪魔合体したみたいなもので、一切倫理などを考慮せずに利益をあげ、いわゆる「自己実現」に邁進していく。ルーは人に対する同情とか倫理というものが全く無いのだが、一方で他人の心の動きを理解することにだけは長けており、相手が男だろうと女だろうと弱いところにつけこんで操ろうとする。こういう、人の気持ちを理解していて全く同情しない人間というのは実に恐ろしいもので、ニナとリック(ルーのアシスタント)はそのせいでとんでもない目にあうことになるのだが、この映画はその極悪非道ぶりを非常にドライなタッチで描いており、ことさら劇的に演出しているわけではないのになんかハラハラするといううまいやり方で最後まで興味を引きつけていると思う。

 たぶんこの映画の一番の見所は目をらんらんと輝かせたジェイク・ジレンホールの怪演である。ジェイク・ジレンホールといえば『ブロークバック・マウンテン』のジャックだし、またまた私生活ではこんな感じでインタビューなんかもなかなか面白おかしく、ユーモアがあってハンサムでという感じなのだが、今回はイケメンぶりもユーモアも完全封印で、もうとにかくひと目みただけでなんか目の輝きがおかしい人を演じている。しかしながらこのルーはそんなに社会性が無いとかいうわけではなく、けっこうちゃんと人と話したりできるのに何かどこかちょっとおかしい、ヘンだ…という雰囲気を漂わせていて、この微妙な演技のさじ加減がすごい。表情の微妙な変化などにも説得力があり、見ていて背筋が寒くなる一方でちょっと可笑しかったりするところもあり、後味もいい意味で最悪だし、まあ誰にでもすすめられる作品ではないがジレンホールの演技を見ているだけでとても面白かった。

補足:この作品はニナとリンダが短い会話で放送の話をするところがあるので、たぶんベクデル・テストはパスする。