この演出では今上演する意味が無い〜『マイ・フェア・レディ』

東京芸術劇場でG2演出の『マイ・フェア・レディ』を見てきた。バーナード・ショーの『ピグマリオン』をアラン・ジェイ・ラーナーがミュージカル化したいわずと知れた有名作である。

 ヒロインであるロンドン下町の花売り娘、イライザが言語学の研究者ヒギンズ教授に話し方を習って出世しようとし、舞踏会でプリンセスで通るレベルの上品な立ち居振る舞いを覚えるが、自分をまともに扱ってくれないヒギンズに不満を抱いて…という物語はとても有名である。シンデレラストーリーとも言える一方、階級に対する諷刺でもある。猛烈に諷刺的でフェミニスト的でもある原作に比べるとだいぶ甘ったるい恋愛モノになっているが、それでも洗練された音楽とオトナの展開で楽しませる作品ではある。

 …とはいえ、この演出ははっきり言って見る意味があまり無い。理由はふたつあり、ひとつはあまりにも1964年に映画に演出がそっくりなこと。ふたつめは全くひねりのない演出なので、2016年の視点からすると単なるバカ女とモラハラ男の話にしか見えないところである。

 この舞台は美術や衣装などがかなりジョージー・キューカーの映画版にそっくりである。視覚的にはよくまとまっているが、全然斬新さが無い。とくにアスコット競馬の衣装なんかはかなり映画に雰囲気が似ている。最近見た『人と超人』がショーの芝居を古くさくならないよう細心の注意を払って演出していたのに比べると、映画そのままとはずいぶん古くさくて手抜きな演出に見える。これなら映画を見ているのとたいして変わらないので、舞台でやる意味があまり無い。

 さらに演出に全く斬新さがないので、最後なぜイライザがヒギンズのところに戻ってきたのかさっぱりわからない。ヒギンズは完全にモラハラ性差別野郎で、最後にイライザに謝ったりするわけでもなく「スリッパはどこ?」なので、結局、「女性はモラハラ野郎が好き」…みたいなものすごく後味の悪い話に見える。その上、映画に比べるとヒギンズの偏屈学者らしいところが少なく、少々若々しくなっているので、余計ヒギンズが調子こいてるモラハラ男に見える。最後のところでヒギンズに自分でスリッパを拾わせるか、あるいはヒギンズがなにか感情的にイライザに泣きつくような振る舞いをすればこういうしょうもない結末は回避できるのだが、そういう工夫が一切ないので、なぜイライザがあんなにひどいことばかり言っていたヒギンズのところに戻ってくるかを全く説得力を持って提示できていない。全体的にあまり見る価値のない芝居だった。

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