ちょっと美術に統一感が無い〜俳優座『人形の家』

 俳優座で、西川信廣演出の音楽劇『人形の家』を見てきた。『人形の家』は今まで一度しか見たことがない。このプロダクションは音楽劇で、台詞はけっこうカットされていると思う。

 演技はいいし、前半では明るい女性だったノラがだんだん人生の問題に直面して暗くなっていくあたりとかも悪くない。ノラとヘルメルの仲がふとしたきっかけで壊れていく様子を中心に置いており、政治的な芝居というよりは家庭内の人間関係の機微を丁寧に描いた芝居という印象である。ナポリの娘の格好をしたノラが踊る場面なども良かった。

 ただ、歌にどういう機能を追わせたいのかいまいちよくわからないところもあり、音楽はこんなに必要なのかな…という気がした。踊りの場面なんかはノラの心理をよく表していていいのだが、最初のマカロンの歌とかはちょっと働きがよくわからない。

 あと、美術にあまり統一感が無いのが問題だ。弧の形の移動式の壁がステージ上にあり、この裏側にはクリムトの「接吻」やファム・ファタルの絵が描かれていて、壁を開くとノラの家の居間があらわれるというものなのだが、愛よりも自分に正直になることを選んだノラの物語とクリムトの絵は全然印象があわない。ノラはファム・ファタルではないし、「接吻」に出てくるような情熱的な愛の幸福を感じている女性でもないので、むしろちぐはぐだし、お話を単なる悩める女性の恋愛モノに還元しているようにも見える。また、さらに外の壁にはムハ(ミュシャ)の華やかで優美な女性たちの絵がパネルとして使用されており、こっちはノラの住む家の作りにわりとあっているかとは思うのだが、明るいムハの絵とダークで情熱的なクリムトの絵があまり釣り合っていないのが問題だ。もうちょっと美術を考えられなかったかと思う。