子どものためのカクシンハン〜『ロミオとジュリエット』

 カクシンハンのポケット公演『ロミオとジュリエット』を見てきた。大分県玖珠町で上演された短い公演を1日だけ東京の絵空箱で行ったものである。

 ステージはかなり狭く、生演奏用のピアノが奥にある。右側にテーブルがあってそこに童話の本が積んであるのだが、全体に玖珠町出身の有名な児童文学者、久留島武彦が『ロミオとジュリエット』を語るという枠がある。70分ほどでキャストも少なく、非常にシンプルなダイジェストに近い上演で、全体的に子どもにお話するための『ロミオとジュリエット』といった風情だ。普通に『ロミオとジュリエット』をやるとけっこう途中で性描写や暴力描写がエグいのだが、そうした場面は赤と青にわかれたボクシングで抽象的に表現している。これは子どもなら見た目を単純に面白がれるし、大人なら細かいところまでわかるような表現で、なかなか気が利いている。

 ロミオ役の岩崎マーク雄大とジュリエット役の真以美は非常に適役だし、河内大和は最後、ほとんどしゃべらない死に神みたいな役で出てくるのだがたいへん存在感があって良かった。個人的に一番面白いと思ったのはのぐち和美演じる乳母がロミオにジュリエットの死を伝えに行くという変更である。キャストが少ないせいでこういう演出にしたのだろうが、ジュリエットの生前はパリスと再婚したらなどと無責任なことを言っていた乳母が、大事にしていたお嬢様の死に直面し、自分の言動の結果にショックを受けて償いたいと思っているのがよくわかる。

 十分面白かったのだが、ただ70分で小さい小屋での上演ということで、ずいぶん小さくきれいにまとまっているところが食い足りない感もあった。メインキャストはこの感じでもうちょっと広い舞台を使い、少しだけ役者も多くして、2時間くらいで重量感を増したものを見てみたいと思った。