バーレスククラスタ必見のミュージカル、『マタ・ハリ』

 東京国際フォーラムで『マタ・ハリ』を見てきた。こちらは韓国で初演されたアイヴァン・メンチェル&フランク・ワイルドホーン作のミュージカルで、演出は石丸さち子が手がけている。もちろんマタ・ハリが主人公である。

 娼婦をしていた過去を隠し、ジャワの踊り子という触れ込みで大スターになったマタ・ハリ(柚希礼音)の恋と死を描いた話で、非常に大がかりに脚色されている。マタ・ハリは実際はドイツのスパイとして(実際にどうだったのかは不明点も多いのだが)処刑されたのだが、この作品ではフランスに忠実で、ドイツ軍にスパイ活動がバレたため偽情報を流され、さらにそれをフランス側が士気高揚のために利用してマタ・ハリに罪を着せたということになっている。さらにマタ・ハリは身分を隠して近付いてきたフランスの諜報部員アルマン(加藤和樹)と恋をしている一方、その上司であるラドゥー(佐藤隆紀)はマタ・ハリに邪な恋心を抱いていて、恋のメロドラマも大盛り上がりだ。全体的にマタ・ハリを生き抜くため、恋と芸術を追究するために何でもする凜々しいダンサーとして描いており、ちょっと美化しすぎとも思えるのだが(いくらなんでもジャワ人のふりをするのは良くないだろう)、まあロマンティックなミュージカルだからしょうがないのだろう。

 全体的にステージの使い方がとてもうまく、とくに第一幕終盤で普通の二階建てセットに道具類がつけくわえられて飛行機に早変わりするあたりは関心した。白黒が基調の美術や、最後にマタ・ハリが銃殺されたところで青い布が上から降りてくる演出なども綺麗で、ビジュアルにはとても気を遣っている。

 一番の見物はマタ・ハリの踊りで、第一部ではちょっとしかないが、第二部冒頭の寺院の踊りの場面はとても良かった。芝居の演出に組み込まれているので周りでちょっとした他の登場人物のドラマが繰り広げられたりもするのだが、もっと見たいという気にさせるダンスだった。これはバーレスクファンは必見だと思う。

 柚希礼音はダンスはもちろん、声があまり明るくなく、恋をして可愛い娘みたいにウキウキ振る舞うところでもちょっと深みがあって過剰に明るくならないのが良かった。ラドゥーを演じる佐藤隆紀の暗くて粘っこい情熱がすごくて、明らかに敵役なのだが迫力は非常にあったと思う。さらにマタ・ハリに付き従う衣装係の女性、アンナ(和音美桜)もとても良い味を出していた。アンナはたぶんレズビアンだろうと思うのだが、女性同士の友情もわりと細やかに描かれている。この、ダンサーと衣装係の女性の百合というのは『ザ・ダンサー』とかにもあったのだが、『マタ・ハリ』のほうが断然、うまくいっている。