この芝居における魔法は、音楽の力〜『メタルマクベス disc1』

 IHIステージアラウンド東京で『メタルマクベス disc1』を見てきた。初演は見られなかったので、今回が初めてである。2218年の荒廃した東京で戦う将軍ランダムスター(橋本さとし)とその妻(濱田めぐみ)の物語が1980年代のバンドであるメタルマクベスの命運が交錯するという物語で、一見複雑そうだが話はけっこうわかりやすく『マクベス』である。

 
 IHIステージアラウンド東京が初体験だったので、生演奏のメタルがギンギンに鳴り響く中客席が回転するというのはかなり斬新だった。丸い客席を取り囲むようにステージが設置され、その前には幕ではなくスクリーンがあってプロジェクションをすることができる。スクリーンの前には狭いパフォーマンス用スペースがあり、移動する場面などはそこで演技をすることもできる(ポストトークによるとこの床がすごく固いらしい)。舞台のそれぞれの位置にセットがあり、使うセットに応じて客席が回転する。けっこうめまぐるしい場面転換があるので、おそらく役者はいつどこのセットから登場すべきなのかを覚えるのがけっこう難しいだろうと思う。ひとりひとりにチャートが必要なレベルなのでは…

 最初はこの回転に慣れるので精一杯という感じだったのだが、芝居の内容じたいは笑うところもたくさんあり、オチははちょっとあまりにも見世物的でどうかなと思うところもあったがまあまあ面白かった。とくに、最初はお互いへの愛でベタベタしていたランダムスター夫妻がだんだん疎遠になっていく様子が、ランダムスターがメタルにはまってしまう経過を通してけっこう丁寧に描かれているところが良い。魔女は出てくるのだが、マクベス/ランダムスターは音楽への執着によって妻と過ごす時間を減らすようになり、狂気に飲み込まれていくので、この芝居における魔法とは音楽の力なんだと思う。そう考えると、凄い音量でギンギンとメタルが鳴り続けているのも当たり前だ。このあとdisc2とdisc3も見るつもりでいるので、その後もう少しいろいろ考えたい。