京劇風味のシェイクスピア~中国国家話劇院『リチャード三世』

 東京芸術劇場で王暁鷹演出、中国国家話劇院『リチャード三世』を見てきた。

 衣装もセットも中国の時代劇風である。セットは後ろに漢字が書かれた白っぽい幕がかかったもので、この幕は人が死ぬたびにどんどん血の筋が増えていく。打楽器の生演奏もある。女優と道化役は京劇俳優を起用しているということだ。

 全体的に非常にちゃんとした『リチャード三世』で、ヴィジュアルも展開もメリハリがあって楽しめる。わりとハンサムで人当たりがよく、他の人の前ではほんとうに良い人みたいにふるまって周りを騙すリチャードを張皓越が好演している。テクストはばっさりカットされている一方、わかりやすくするために冒頭にちょっと『マクベス』の魔女風な登場人物が出てくるなど、付け足しもある。

 ただ、アンとエドワード王子を演じる張鑫が京劇女優で、女と子供であるこの2人だけ京劇らしい台詞回しなのはちょっと引っかかった。他はかなり現代劇タッチの演出というかとてもわかりやすく正攻法なシェイクスピアなのだが、女性、子供、殺し屋たちだけは伝統的な京劇の要素をふんだんにまとって登場する。このあたりになんとなくセルフオリエンタリズムというか、東アジア的要素のジェンダー化を感じてしまった。京劇に詳しいわけではないのでこのへんはそんなに深く分析できたわけではないのだが、どうなんだろうか。