プロジェクションの背景は凄いが…新国立劇場『魔笛』(配信)

 新国立劇場巣ごもりシアター『魔笛』を見た。現代アーティストでアニメーターのウィリアム・ケントリッジ演出によるものである。

www.nntt.jac.go.jp

 アニメーターが演出家ということで、絵が動くみたいなプロジェクションを大量に使ったプロダクションだ。このアニメーションみたいな背景はさすがで、とても魅力がある。パパゲーノ(アンドレ・シュエン)が楽器を演奏するのにあわせて背景が動いたり、タミーノ(スティーヴ・ダヴィスリム)やパミーナ(林正子)が試練を通過する時に景色が変わったりするあたりは非常に綺麗で効果的だ。最初のほうではこのプロジェクションを幻灯機のようなもので映すというくだりがあり、最新の技術を使ってレトロなものを見せるという感じになっているあたりも面白い。

 ただ、このレトロで新しい美術以外にはちょっと言いたいことがよくわからない…というか、私はもともと『魔笛』は音楽はともかく台本はワケがわからないとっちらかった話で、しかもそのまま演出するとミソジニー的になると思っているのだが、なんかこの演出、ちょっと帝国主義っぽい感じがするのである。ザラストロたちが何かいかにも植民地主義時代の学者のクラブみたいなものを運営しているのだが、このザラストロの19世紀的な権威があんまり問われずに終わってしまう。このため、性差別的で帝国主義的な秩序がそのまんま保存されて終わる、ちょっと古くさい話のように感じられる。別に意図的に帝国主義的な話にしたかったわけではないように思われるので、何かうまくいってないところがあるのではないかと思う。