美術とヒロインがとても良かった~メトロポリタンオペラ『トスカ』(配信)

 メトロポリタンオペラ『トスカ』を配信で見た。2018年に上演されたものである。演出はデイヴィッド・マクヴィカー、指揮はエマニュエル・ヴィヨームである。

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 舞台は1800年のローマで、ナポレオンや共和主義の嵐が吹き荒れ、既成の体制と対立している不安定な時勢である。ヒロインのトスカ(ソニア・ヨンチェヴァ)は才能ある歌手で、画家のカヴァラドッシ(ヴィットーリオ・グリゴーロ)と愛し合っている。カヴァラドッシは共和主義を支持しており、逃亡してきた友人で政治犯のアンジェロッティを匿う。このせいでカヴァラドッシは警察に追われる身となり、逮捕される。警視総監スカルピア(ジェリコ・ルチッチ)はかねてからトスカに横恋慕しており、カヴァラドッシの助命をえさにトスカを我が物にしようとするが…

 有名作なのに今まで見たことがなく、ちゃんと見たのは初めてだったのだが、大変楽しんだ。まず、教会をはじめとする1800年のイタリアを再現したセットがとても雰囲気の良いもので、場面ごとに奥行きなども変わってメリハリもある空間の使い方になっている。

 また、トスカを歌うヨンチェヴァが歌も演技も申し分なく、奥行きのある親しみやすい女性としてトスカを作っているのが良かった。おまけのインタビューで、ヨンチェヴァがあまりトスカを気位の高い感じにしたくなかった(わりとそういうプロダクションも多いらしい)と言っていたのだが、まさにそういう感じで、ドラマティックに歌い上げるところはとても情熱的だが、基本的にはローマで恋も仕事もいろいろ頑張っている庶民の女性である。トスカは多層的なキャラクターづけがされている女性で、カヴァラドッシを愛している恋人としての側面がある一方、歌という芸術にも同じくらい情熱を注いでいるし、信心深くて宗教生活にも関心がある。ヨンチェヴァはこういうところをバランス良く作っている感じで、トスカは大変魅力的で愛や芸術には強いこだわりがありそうだが、それ以外のことについては比較的感じのいい、親しみやすい人物である。そこがスカルピアがつけこめると誤解するポイントでもある。