もうその木と付き合っちゃえば?~ラインドイツオペラ『セルセ』(配信)

 ラインドイツオペラ『セルセ』をオペラヴィジョンの配信で見た。ヘンデルバロックオペラである。ステファン・ヘアハイム演出で2019年に上演されたものの映像だが、既にそれより前に別の劇場で同じ演出で上演されたことがあるようだ。

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 タイトルロールであるペルシア王セルセ(ヴァレア・サバドゥス)はやたら木が好きなのだが、木陰で休んでいるところに「やーいあいつ木に惚れてやんの」的なことを歌いかけてきた美女ロミルダ(ハイディ・エリザベス・マイヤー)に夢中になってしまう。ところがロミルダはセルセの弟アルサメネ(テリー・ウェイ)と婚約していた。セルセにはもともとの婚約者アマストレ(カタリナ・ブラディク)がおり、セルセの心変わりが不安なアマストレは男装してセルセの宮廷に潜入する。さらにロミルダの妹アタランタ(アンケ・クラッベ)はアルサメネに恋をしていたため、姉とセルセをくっつけようとするが…

 

 なんだか話はもうメチャクチャである。セルセは大変な変人というか変態で、最初は木が大好きだったのに、そのことで自分をからかったロミルダに突然ぞっこんになっており、樹木と自分をからかってくる女が性愛の対象だとかいう変わった性癖の持ち主だ。最初に歌われる有名なアリア「オンブラ・マイ・フ」は木陰が楽しいというだけの内容を大変情熱的かつ官能的に歌い上げる作品で、正直、真面目な恋の歌としてはこのオペラで一番の聞き所だと思うので、セルセが真剣に木を愛しているようにしか聞こえない。しかしながら別に木が好きなだけならたいして問題は起こらず、その後ロミルダにしつこくつきまとうほうがよっぽど問題である。木の歌を歌っている時のセルセが一番真面目そうで、その後はもうおバカな貴公子まっしぐらなので、もうセルセは木と付き合ったほうがいいんじゃないかと思った。セルセはこんな感じの非常にエキセントリックな人物で、それを澄んだ歌声のカウンターテナーであるサバドゥスが何度も派手な衣装をお召し替えしてキャンプな感じで演じている。なお、このセルセは設定上では『300』のクセルクセースと同一人物だが、ちょっとステレオタイプな感じだった映画のクセルクセースよりもとんでもない方向にぶっ飛んでいて、少なくともセルセのキャラについてはこっちのほうが面白いのでは…という気もする。

 演出はバロックオペラの過剰さとコミカルさをこれでもかと強調したものだ。セットはバロックっぽい奥行きのある背景に、木枠で囲った部屋などを組み合わせたもので、回転でどんどん背景が変わる。衣類も時代がかった派手なものだ。ロミルダとアタランタは、とくに序盤のほうはそっくりなドレスを着た姉妹なのだが、ロミルダは緑のドレスで、たぶんわざと樹木っぽい感じにしているのではないかと思う(セルセは何しろ木が好きだから)。オケのメンバーをいじる演出があったり、アタランタがセルセをけしかけて大砲など次々物騒なものを持ち出したり、時事ネタジョークを出してきたり、いろいろ笑えるところがある。ただ、アタランタが性暴力にあうところはいくらなんでもやり過ぎだと思った(その後の展開に全く効いてないし)。