ストラトフォード・フェスティバルの配信でI am Williamを見た。レベッカ・デラスプによる子ども向けのお芝居で、野外上演を収録したものである。シェイクスピアの架空の姉妹という、英文学研究者にはお馴染みのネタを音楽劇にした作品だ。
舞台は近世のストラトフォード・アポン・エイヴォンである。ジョン(アラン・ルイス)とメアリー(シャノン・テイラー)のシェイクスピア夫妻にはマーガレット(シャクーラ・ディクソン)とウィリアム(ランドン・ドーク)の二人の子どもがいる。マーガレットには文才があるのだが、読み書きの得意な女性は魔女扱いされるのでマーガレットは全くその文才を発揮することができない。このため、マーガレットは文才はないが善良で芝居好きのウィリアムが著者だというふりをして戯曲を発表しようとするが…
よくできた戯曲ではあるし、役者陣の演技などはいいと思うのだが、私はけっこうこういう史実を無視している話はあまり面白いとは思わない。まず、そもそもこの作品のネタになっているシェイクスピア別人説というのは既にシェイクスピアのことをよく知っている大人が冗談で楽しむもので、そういうことをよく知らない子ども向けの芝居にするようなものではないと思う。また、本作はヴァージニア・ウルフのジュディス・シェイクスピアのたとえで有名な「シェイクスピアに姉妹がいたら?」という発想をネタにしているのだが、実は17世紀に入ると女性でものを書いた人というのはいないわけではないので、むしろシェイクスピアに姉妹がいたら…みたいな話よりはそういう実在の女性作家を取り上げて紹介すべきではないかと思っている(『エミリア』はそれをやっていて、正直、うまくいっているとは思えなかったのだが)。あと、最後が『恋におちたシェイクスピア』に似すぎており、エリザベス1世が劇場に来るということは実際にはないのだが(宮廷に役者を呼ぶので)、お芝居を見に来て全部解決してしまうのが物足りない。