プロローグとエピローグ、要るかな…『ナイル殺人事件』(ネタバレあり)

 『ナイル殺人事件』を見た。ケネス・ブラナーが監督するポアロシリーズ第2作で、前作は『オリエント急行殺人事件』である。新型コロナウイルス流行で公開延期になっていたが、やっと公開された。

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 富豪令嬢リネット(ガル・ガドット)が新婚の夫サイモン(アーミー・ハマー)とエジプトに新婚旅行に出かけるが、サイモンの元恋人である友人ジャクリーン(エマ・マッキー)につきまとわれるようになる。やがてさまざまな怪しい出来事に続いて殺人が起こり、船の乗客の誰が犯人か…ということになる。ポワロも諸事情あってエジプトにおり、リネットの新婚旅行クルーズに招かれていたため、殺人事件の捜査に携わることになる。

 乗客の面子が原作から変更されており、前作『オリエント急行殺人事件』に出ていたポアロの友人ブーク(トム・ベイトマン)が引き続き登場している。オッターボーン母娘は原作では作家とその娘だが、この映画では有名なブルース歌手サロメソフィー・オコネドー)とその姪でマネージャーのロザリー(レティーシャ・ライト)に変更されている。他にもちょこちょこ登場人物が変更され、それに合わせて終盤の展開も変わっている。また、エピローグ的に若い頃のポアロ第一次世界大戦従軍のことが描かれている。

 豪華な雰囲気の時代ものミステリで、ブークの母でゴージャスだが偏屈でたぶん人種差別心もあるユーフェミアを演じるアネット・ベニングとか、リネットにフラれたウィンドルシャム医師をいつもとは打ってかわって真面目な感じで演じるラッセル・ブランドとか、役者陣も充実している。サイモン役は撮影後に性的虐待で告発され、依存症で入院してしまったアーミー・ハマーなのだが(宣伝では存在感が消されていた)、『ウエスト・サイド・ストーリー』のアンセル・エルゴートと違うのは役柄が「人あたりは良いのに実は相当ヤバい奴」であるということで、なんだか役柄に妙な説得力が出てしまい、これまた『ウエスト・サイド・ストーリー』とは違う意味でちょっと気持ち悪くてノイズになってしまった(クリスティ原作なので抑えた描き方だが、サイモンってサイコパスか変態なのではと思う)。

 ちょっと疑問なのは、プロローグとそれをしめるためのエピローグ部分は要るのかな…ということである。全体的にこの映画のポアロはちょっと不自然な押しの強さがあるというか、傷付きやすさを自信による武装で隠しているみたいなポアロである。このキャラクター造形は第一次世界大戦で恋人を失ったことからきているということなんだと思うし、シェイクスピア俳優のブラナーとしてはそういう奥行きのある探偵像を作りたいのだろうと思うのだが、ちょっとロマンスに偏りすぎてしまっている気もする。とくに最後、ポアロがひげをそって出てくるところは、私はやりすぎではと思った。