オーチャードホールで松山バレエ団『ロミオとジュリエット』を見てきた。清水哲太郎演出・振付、河合尚市指揮によるものである。
73歳でジュリエットを踊る森下洋子の力量などは凄いと思ったのだが、正直、演出コンセプトが個人的に面白いと思えなかった。パンフレットによると、「ペスト禍の絶望の中世からルネサンス」への移り変わりを示したいらしいのだが、「暗黒のヨーロッパの世相」とか、今では時代遅れと見なされている中世暗黒史観にけっこう基づいている。しかしそれがけっこう時代が曖昧な「中世」…だというか、最初にペストマスクをつけた人たちがたくさん出てきて、途中でペストの足止めで手紙がロミオ(大谷真郷)に届かないというところもはっきり演じられているのだが、「ペスト禍の絶望の中世からルネサンス」というコンセプトのわりにはペストマスクは17世紀以降のものである(『ロミオとジュリエット』初演時にこのマスクは存在していないと思う)。なんか「中世といえばペスト!ペストといえばマスク!」みたいな発想はけっこうあるのだが、そういうのをそのまま取り込んでいてかなり時代考証のツメが甘い気がする。
さらに、全体的に人やものがけっこうわちゃわちゃしていて舞台が狭く見えがちで、そのせいで動きに窮屈さを感じるところがある。一番せわしないと思ったのは最後のジュリエットが亡くなるところで、ジュリエットが亡くなったと思った途端に人々が墓所に流れ込んできてロミオとジュリエットの遺体を覆い尽くすように押し寄せて嘆き悲しむ…という終わり方なのだが、ここはもっとロミオとジュリエットが二人で死んでいったことを余裕を持って見せるべきだと思った。全体として、私はもうちょっとシンプルな舞台作りのほうが好きである。