女性同士の連帯とリンダの業績~『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』

 『リンダ・ロンシュタット サウンド・オブ・マイ・ヴォイス』を見た。

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 リンダ・ロンシュタットの業績を解説したドキュメンタリーである。リンダ・ロンシュタットというと、美声のみならずキュートで魅力的な恋多き女だったので、下世話な関心などが先立ってしまうこともあるのだが、このドキュメンタリーはそういうところはさらっと流して、リンダがいかに音楽界に多くの業績を残した才能あるアーティストだったか、また性差別的なロック界でいかに他の女性ミュージシャンを支援していたかを掘り下げている。リンダはカントリーロックやフォークロックの歌手として有名になったが、ジャズやスタンダードも歌い、ギルバート&サリヴァンのサヴォイ・オペラ『ペンザンスの海賊』の舞台で主役を演じ、メキシコ系だったので自分の音楽的ルーツを重視してスペイン語で伝統的なメキシコ音楽を歌うアルバムも作った。舞台に出たり、スペイン語のアルバムを作ったりするというのは時代を考えると革新的で、ヒットを出すよりも高い音楽性を重視した選択だ。また、昔からけっこう手厳しくロック界の性差別を批判しており、他の女性ミュージシャンと連帯していた。エミルー・ハリスがクリエイティヴパートナーだったグラム・パーソンズを失った時はリンダの励ましで立ち直ったそうだ。

 ドリー・パートンやエミルー・ハリスとトリオを作ったのはこのカントリー界の女性同士の交流が生んだ大きな成果である。ドリーがリードヴォーカルになるのはまあ必然で、お互いに嫉妬するようなことはなかった…というコメントが述べられているのだが、たしかに映像を見ると「これはドリーがセンターですね」と思わざるを得ない感じになっている。リンダもエミルーも歌は折り紙付きだし、スター性もあるのだが、声の特徴といいオーラといい、ドリーのパワーが凄い。リンダもエミルーもそういうことを理解して良いアルバムを作ろうとしていたようで、創造性がつまらない嫉妬とかやっかみを脇に追いやるところが垣間見えて面白かった。