シリアス系ノワールかと思いきや、けっこうキャンプなクィアロマンス~Love Lies Bleeding(ネタばれあり)

 ローズ・グラス監督の新作Love Lies Bleedingを見てきた。

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 1980年代末のアメリカの田舎町が舞台である。ジムで働いていたルー(クリステン・スチュワート)は、町に流れてきた女性ボディビルダーのジャッキー(ケイティ・オブライエン)と恋に落ち、同棲するようになる。ところがルーの姉であるベス(ジェナ・マローン)が暴力的で不実な夫JJ(デイヴ・フランコ)に半殺しにされる事件が発生する。ステロイドの摂取しすぎで精神不安定になっていたジャッキーはJJを殺してしまう。

 予告からかなりシリアスで真面目なノワールっぽい映画を想像して見に行ったのだが、全体的にけっこうダークなユーモアがあって笑えるところもある。終盤ではエド・ハリス演じるルーの父親がカブトムシを食ったり、巨大女が現れたり、キャンプなセンスが炸裂する映画である。ルーもジャッキーもだいぶ困った人なのだが非常に奥行きがあり、暴力的なところも含めて90年代のクィアなロマンス映画みたいな雰囲気がある(『『ボーンズ アンド オール』』といいこれといい、ちょっとそういう映画が流行っているのかもしれない)。

 ルーは一見したところかわいそうな被害者に見えるし、自分は父親やベスのようなことにはならないようまともに生きると言い張っているのだが、実際はベス同様、精神不安定で虐待的にもなり得る恋人を愛し続けて守ろうとするし、さらには父親同様、邪魔になった元恋人を始末しようとする。これが本作の大きな皮肉で、育った環境に反発しつつ、結局はその環境から大きな影響を受けてどうしようもなくダメなことをし続けるルーの弱さがリアルに描かれている。一方でジャッキーも武器に頼るより自分の力に頼りたいと言って体を鍛えているわりには、ステロイドにも銃にも頼りがちになってしまう弱さをそなえている。この弱くて悪いふたりをスチュワートとオブライエンがとても生き生きと演じており、ものすごくダークなハッピーエンド…的な終わり方も含めて非常にレズビアンのロマンスものとしてよくできていると思う。