グローブ座『終わりよければすべてよし』〜やはり、ヘレナが妹っぽすぎるのではないか?

 グローブ座で『終わりよければすべてよし』を見た。これはかなりの不人気作なのだがどういうわけかうちは以前日本で上演を見たことがあり、今回が二度目。かなり変えてあった前に見たバージョンに比べるとずっとオーソドックスな演出だった。


 だいたいこの作品を読むとバートラムは嫌な男、ヘレナは純粋…というふうに思うだろうという気がするのだが、このプロダクションではなんとなくバートラムがわりとまともな人間というか欠点だらけだが結構理解できる男性として描かれているように思った。とりあえずこの上演ではバートラムがヘレナを拒む理由について、階級差もさることながらヘレナがいかにも「妹」っぽくバートラムにとって性的魅力がないことが強調されていると思ったのである。最初のほうの場面でヘレナがバートラムの実母で自分の養母であるルシロン夫人に「あなたは母ではないし私とバートラムは兄妹ではないのです」とやっきになって否定するところがあるのだが、それに返答するルシロン夫人の態度はまるっきりヘレナとバートラムを兄妹として育ててきたみたいな感じである。そういうことならバートラムが義理の妹扱いでずっと一緒に暮らしてきたヘレナに全く性的に惹かれず、ヘレナと性交渉するなんて気持ち悪いと思っていることも結構理解できる(参考:ウェスターマーク効果)。ヘレナがずっと黒い服ばかり着てて地味で家庭的な雰囲気の女性、バートラムが経験が浅く傲慢な若者として描かれているのがそれに拍車をかけてると思う。なんというか義理の兄妹扱いで一緒に育った男女が結婚するなら双方が相当に性的に惹かれあってないと無理だろうと思うのだが、ヘレナは家族としては頼れる感じでも男性にとって性的魅力があるかというとそうでもなく、バートラムがヘレナを扱う様子はまるで家族をうざがっている兄がしっかりしているけどうるさい妹を嫌うみたいな感じである。ただ、このへんの演出はちょっとイマイチはっきりせず、わかりにくいように思ったな…もっとそういうバートラムがなんでヘレナを嫌うのかを強調した演出を取り入れてもいいと思うんだけど。


 助演陣、とくにお笑い担当のラフュー、パローレス、ラヴァッチがとにかく可笑しくてエネルギッシュでいい。主筋はちょっとぼやっとしてたように思うが、このあたりが紡ぎ出す脇筋の面白さでまあ帳消しな気もする。とくにラフューがこんなに面白いとは思わなかったな…戯曲を読むとただの親切なおじいさんみたいな感じなのだが、この上演では怒るわ泣くわ暴れるわ、なかなか情熱的な頑固じいちゃんでとても面白かった。