戦慄!アタックオブザキラーマウス〜イングリッシュナショナルバレエ『くるみ割り人形』(本年度『くるみ割り人形』第一弾)

 なんと今年はクリスマスシーズンに四回も『くるみ割り人形』を見るのだが、第1回目となる本日はロンドンコロシアム座のイングリッシュナショナルバレエ版を見てきた。毎年、この時期になるとチャイコフスキーのバレエ『くるみ割り人形』(これはクリスマスシーズンの話で、日本の『忠臣蔵』とかみたいな欧米の年末の風物詩)がいろんなところで上演されるのだが、さすがに違う演出で四回も見に行く人はいない…と思う。一応、数年前にマシュー・ボーンの翻案版を見たことあるのだが、はっきり言って話は全然覚えてないしクラシックな演出のははじめて。


 『くるみ割り人形』は祝祭向けの演目で、『白鳥の湖』とかみたいに男女のややこしい痴情のもつれとかを描いたものではないので気楽に楽しく見られる話である。クリスマスイヴのパーティの日に主人公である少女クララがドロッセルマイヤーさん(陽気なじいさん)からプレゼントとしてくるみ割り人形をもらうのだが、これを弟(ウィキペディアには兄と書いてあるが、この演出では明らかに年格好からして弟だった)フリッツが壊してしまい、ドロッセルマイヤーさんに修理してもらうはめになる。真夜中に人形が気になって確認しにいったクララはなぜか巨大ねずみ軍団に遭遇。クララとくるみ割り人形、おもちゃの兵隊の連合軍とねずみ軍団の熾烈にして緊張感のないマウスファイトが繰り広げられるが、最後はどうにかして連合軍が勝利。王子さまに変身したくるみ割り人形はクララをお菓子の国に招待し、クララはお菓子の国で楽しいひとときを過ごすが、これは夢でクララがベッドで目覚めておしまい…というもの。第二幕のお菓子の国の場面はきれいな衣装を着たダンサーがひたすら入れかわりたちかわり歓迎の踊りを踊るミュージカルヴァラエティみたいになるので全然話らしい話はないのだが、ただここに出てくる楽曲が大変有名なものばかりでとても美しいので単純にレビューショーとして楽しめる。全体として、子供向けファンタジーとB級SFを可愛くてフリフリの音楽とダンスで味付けしたキャンプテイスト満載の作品という感じ。


 イングリッシュナショナルバレエの『くるみ割り人形』も結構モダンな感じである。ローラースケート使ってスケート場の様子を表現したりとか、ドロッセルマイヤー老人が火を使った派手なマジックをやって子どもたちを喜ばせたりとか、たぶんチャイコフスキーの頃は全然なかったであろうおしゃれな味付けが満載。最近流行の、手前に置いた薄いスクリーンに光を投影して雪やらなんやらを表現する特殊効果もわりと効果的に使われている。あと結構いろいろコミカルで、子どもたちのいたずらやら、ねずみ軍団とおもちゃの兵隊の面白可笑しいマウスファイトやらで笑わせるところもたくさんある。とくにねずみ軍団は動きがとても面白くてよかった(マウスファイトのB級映画っぽさは『くるみ割り人形』よりもむしろ『戦慄!アタックオブザキラーマウス』とかいうタイトルにしたほうがいいのではっていう感じ)。まああととにかく音楽が美しいので見ていて飽きない。

 
 そんなわけでクリスマスの演目としてはふさわしい楽しい演出になっていたと思うのだが、ちょっとよくわからなかったのはコーヒーの踊り。アラブの独裁者ふうの王子?が奴隷を監禁?していてこの人がクララに解放してもらうみたいな演出だったのだが、あれはこのバレエができた頃にアラブふうのエキゾチックな音楽が流行っていたということなのかね、それとも最近の世情を反映した諷刺ネタなのかね?バレエはとにかく素人なのでよくわからなかった。


 まあそんなわけで年内にあと三回(ロイヤルバレエ、バーミンガムバレエ、マシュー・ボーン)見るので、年末までにくるみ割りのプロになるのを目指します。