アメリカ南北戦争を扱った歴史映画リスト

 実は前々から連れ合いに「アメリ南北戦争前後を扱った映画で歴史叙述の観点から面白いものをリストしてほしい」と頼まれていたのと、『リンカーン』や『ジャンゴ 繋がれざる者』が公開されるのと、この間歴史コミュニケーション研究会で「歴史映画と歴史コミュニケーション」という研究発表会があったので(詳しい内容についてはid:next49さんのこちらも参照)、自分用に作成した南北戦争前後を扱った歴史映画リストを公開しようと思う。他の方にすすめてもらってまだ見てない映画とかも最後に付け足した。


○ある程度史実を下敷きに「歴史映画」の体裁を整えているもの

D・W・グリフィス監督『國民の創生』(1915)

 技術的には今見てもすごいのだが、悪い解放奴隷に言い寄られるヒロインをKKKが助けにくるとかいうような衝撃の差別ストーリー。こんな映画をマジで作っていた人々がこの時代にはいたのだ。


・『キートンの大列車追跡』(1926)別タイトル『ザ・ジェネラル』

 一応、南北戦争列車襲撃事件を元ネタにしてるのだが、なんか南部が勝ったりとか歴史記述としてはかなり自由にやってて、タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』とかの先駆だと思う。ちなみにコメディ映画としては歴史上最も優れたものだとか言われており、すんごい面白いのでサイレントだからやだーとか思わず騙されたと思って見てみて下さい。


・『風と共に去りぬ』(1939)

人種差別的描写もあるし、あと原作の移民ネタ、あるいはメラニーのスカーレットに対する慕情とかがけっこうトーンダウンしてるとかいろいろ疑問点はあるのだが、この映画をバカにしてる連中とはお友達になりたくないね!とにかく恋愛映画としても歴史映画としても金字塔。


・『グローリー』(1989)

 上であげた映画はほとんど南軍視点なんだけど、『グローリー』は北軍視点で、士官以外全員アフリカンから成るアメリカ陸軍最初の黒人部隊が南軍と戦って壮絶な戦死を遂げるまでを描いている。こういう映画が作られるようになったのは、もちろん公民権運動などなど以降、白人中心的歴史観が修正されるようになったことがあるはず(これはいわゆるまっとうな歴史修正主義、新しい史料を掘り出したり今まで注目されてこなかった人々の事績を掘り出そうとするという意味でのリヴィジョニズムの成果だと思う)。


・『楽園をください シビル・ガン』(1999)

 これ、アン・リー監督が『ブロークバック・マウンテン』の前に撮った南北戦争映画なのだが、まあ非アメリカ人の監督が撮ってるってこともあるのかめちゃめちゃリヴィジョニズムの影響を受けており、ミズーリ州のド田舎で住民がゲリラ化してご近所同士血で血を洗う戦いを始めるという泥沼の最前線を描いた作品。華々しい決戦とかは全然なく、白人の主人についてきて南軍で戦う奴隷のアフリカンの複雑な心境とかも描かれている(これは実際にあったことらしい)。地味でぱっとしない戦争映画だが、戦争ってこういう栄光も名誉も正義もないものなんだろうな…みたいな感じでいやな感じのリアリティがある。


・『コールド・マウンテン』(2003)

 この作品は『風と共に去りぬ』の影響が濃厚なのだが、恋人と故郷への思いが断ち切れずに脱走する南軍兵士と田舎で生き残るため苦労してるその恋人が主人公になってしまって、もう戦争の栄光とか全然ない。恋愛ものなので『楽園をください』よりとっつきやすいが、これもまたリヴィジョニズム(+当時のアメリカの政情)の影響あると思う。


○変わり種

・『黒蘭の女』(1938)

 『風と共に去りぬ』でスカーレット役をもらえなかったベティ・デイヴィスをヒロインにして作られたある意味バッタもんてきな映画で、南北戦争直前の南部を舞台に気性の激しい令嬢の恋の波瀾を描いた…っていうと全く『風と共に去りぬ』の二番煎じみたいに見えるが、ちょっと慣習を破っただけで排斥されてしまう閉鎖的な南部の上流社会の雰囲気とベティ・デイヴィスの名演が相まってかなり面白い。『風と共に去りぬ』と一緒に見ると、1930年代末のアメリカ人が戦前の南部というものに抱いていたイメージがよくわかる。


・『若草物語』(1994)

 よく考えたらこれはお父さんが南北戦争に出征してしまって女だけで暮らしてる、っていうことで「戦争が出てこない戦争映画」なんだった(というご指摘を受けたのだが、よく考えたらホントそうだ)。知っているかぎりではこの前に二回(1933年1949年)映画化されてるのだが未見なのでそのうち比較したい。


・『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002)

 これも「戦争が出てこない戦争映画」なんだった。南北戦争の徴兵で暴動が起こったりとか、内戦で政情不安なところでニューヨークのギャングどもが暴れてる…っていう映画だったんだな。


○未見のもの

・『若き日のリンカーン』(1938)

 ジョン・フォードヘンリー・フォンダが組んだ伝記ものらしい。しかし、30年代末のアメリカ人ってほんとに南北戦争前後のことに興味あったんだな…


・『続 夕陽のガンマン』(1966)

 マカロニウェスタンだけど、南北戦争ネタらしい。


・『ビラヴド』(1998)

 言わずと知れたトニ・モリソンの有名小説の映画化で、小説は読んだのだが映画のほうはどうやら日本でDVD化されてないようで未見。南北戦争直後のアフリカンたちの暮らしを描いたもの。


・『声をかくす人』(2010)

 リンカーン暗殺事件関係で合衆国史上初めて死刑になった女性のことを描いた歴史ものらしい。


 ぱっと思いつくものを並べるだけでけっこうアメリカ映画の南北戦争歴史叙述の関心が「白人→アフリカン」「華やかな英雄や社交界→地味な庶民の苦労」に移り変わってるらしいのがわかる。やはりこれにはきっとリヴィジョニズムの影響が…南北戦争史についてはかなり歴史観の変遷がアメリカの学界でも大きかったらしいので、ひょっとして学説の影響がかなりダイレクトにハリウッド映画に表れてるのかもしれない。これについていい論文とかあるかな?


 ↓最後に、映画と歴史叙述といったらまず読まなければいけないこいつをご紹介。