モータースポーツをちっとも知らない人でもわかるように撮る〜『ラッシュ/プライドと友情』

 ロン・ハワード監督、ダニエル・ブリュールクリス・ヘムズワース主演『ラッシュ/プライドと友情』を見た。

 これは1976年のF1で激しい優勝争いを繰り広げたライバル同士、UKのジェームズ・ハント(クリス・ヘムズワース)とオーストリアニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)の敵対と友情を描いたものである。シーズン途中でニキが大事故を起こして全身に大やけどを負うが、一ヶ月くらいで奇跡の復活を遂げるというドラマティックな史実があり、このあたりをかなり忠実に描いているらしい。

 この映画が素晴らしいのは、モータースポーツが全くわからない人でも役者の表情と編集だけで「ここはワクワクするところ」「ここは不吉に感じるところ」というのを手に取るようにわかるようにしているところである。私はF1のことは全くわからないのだが、車の部品の細かい動きをめまぐるしくつなぐ忙しいカット割りを見るだけでレースの盛り上がりがひしひしと感じられて面白かった。とくにニキ・ラウダが事故るレースの場面では、ちょっとした音の変化の演出なんかで「何かこれはよくないことが起こる」という不安感を盛り上げており、編集だけでこんなにいろんなことができるんだなぁ…と感心した。

 またまた役者の演技も非常に良い。F1のレーサーはレース中は目の周り以外あまり顔の表情が見えなかったりしてやりにくいところもあったと思うのだが、ヘムズワースもブリュールもよくやってると思う。二人ともものすごく欠点が多くてあまり「素敵なさわやかスポーツマン」として描かれているわけではないと思うのだが(ハントは遊び人で無責任すぎるしラウダは真面目でちょっと嫌みだ)、欠点と人間味のバランスが良いので、どちらもどこか愛すべきところのあるキャラになっている。とくにダニエル・ブリュールはいつもの甘い魅力を封印して(本当なら遊び人のハント役のヘムズワースと同じくらいプレイボーイぶれるはずなのに!)、真面目で齧歯類っぽい感じだったらしいニキ・ラウダに几帳面に似せており(いやまあそれでもカッコいいのだが)、治療の苦痛演技とか最後のレースの決断の演技とかもものすごく真に迫っていて、まあ役柄としては助演なのかもしれんが役者的な見せ場のほうは断然こっちのほうがあるなぁ…と思った。ハントとラウダが並ぶと、陽性なブロンドと陰のあるブルネットということで図像的にはかなりオーソドックスと言えると思うのだが、息が良く合っているのでそんなにステレオタイプ的とも感じなかった。しかしながら息が良く合っているというのはスラッシャーホイホイであるということでもあり、とくにいつも顔を合わせた時にはラウダをバカにしているハントが、手術後のラウダにぶしつけな質問をした記者を陰でボコボコにするところは「ちょっとこいつおかしいんじゃないのか」と思う一方でちょっと'Ho yay!'感が…

 ちなみにこの作品は時代劇としてもかなり気合いを入れて考証しており、美術やファッションなんかは実に70年代らしく、派手ではないがさりげないオシャレを細かいところに取り入れてレトロな雰囲気を醸し出している。史実の考証もかなりしっかりやってるそうでラウダ本人からお墨付きをもらっているらしいのだが、事実だけじゃなく全体的な雰囲気にも気を遣っているというのも高評価ポイントのひとつである。