フェステは誰に歌うのか〜インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドン『十二夜』

 ポール・ステッビングズ演出、インターナショナル・シアター・カンパニー・ロンドン『十二夜』を明星大学で見てきた。

 後ろのついたて以外はほとんどセットもない簡素な舞台で、台本は相当カットされている。立ち聞きの場面やマルヴォーリオを部屋に閉じ込める場面などは全部このついたてを使って行われる。7人だけで上演するため、船長、フェイビアン、アントニオがいなくなっており、船長の台詞の一部を墓掘りが言うなど登場人物を少なくするための改変がいくつかある。個人的には、セバスチャンに思いを寄せている気の毒な海の男アントニオが消えたのがちょっと寂しかった。あと、フェステとヴァイオラの会話がわりとカットされており、フェステがヴァイオラの正体にどうも気付いているらしいというような描写はない。

 全体としてはシンプルに面白おかしくまとめた手堅い演出だったと思うのだが、とくに特徴的だったのは、マライア役が長身の男性(ジャン=ポール・フルゲール)であることで、普通マライアは小柄できびきびした女性として演じられることが多いと思うのでなかなか意外性があったものの、愉快で活発なキャラになっていてとても良かった。オリヴィア役はアフリカンの女優(シェービン・ダッシュ)が演じているのだが、これがなかなか表情豊かで可愛らしく、また品があっていかにも大きな屋敷の女主人という感じだ。前回の『テンペスト』同様終わり方に特徴があり、マルヴォーリオを慰めるよう命じられたフェステ(ジョン=ポール・ローデン)の歌がマルヴォーリオ(ガレス・フォードレッド)にかぶさっていくという演出になっている。複雑な哀感に満ちた終わり方だ。楽しいことが嫌いなマルヴォーリオが、楽しさの権化のようなフェステに慰められるというところに人生の皮肉と意外なめぐりあわせを感じる。以前、アッシュランドでマルヴォーリオが最後復讐に戻ってくるという『十二夜』を見たことあるのだが、あれと対照的だと思った。

 細かい演出の特徴としては、サー・トウビーがサー・アンドルーを最後に怒鳴るところについて、ここはサー・アンドルーが本気で傷ついて暗い顔になって出ていくような演出と、「またまた酔っぱらいが…」みたいに皆が呆れて介抱するような演出があるのだが、このプロダクションでは後者の解釈で、サー・トウビーがほんとにぐでんぐでんのしょうもない酔っぱらいになっていた。あと、マルヴォーリオを手紙で釣る場面で、もとから手紙を置いておくのではなく、ついたての後ろからその都度手紙を直接マルヴォーリオの前に投げ入れるというやり方をしているのが面白かった。