Brexit前のロンドン〜『あしたは最高のはじまり』

 『あしたは最高のはじまり』を見てきた。

 主人公のサミュエル(オマール・シー)は南仏のリゾートの観光船船長で大変なプレイボーイだったが、ある日突然、昔関係した女性クリスティン(クレマンス・ポエジー)に娘だという赤ん坊、グロリア(グロリア・コルストン)を押しつけられる。グロリアをクリスティンのもとに返そうとロンドンに飛んだサミュエルだったが、クリスティンは見つからず、仕事はクビになり、現地で知り合いになったゲイのテレビプロデューサー、ベルニー(アントワーヌ・ベルトラン)に助けてもらってスタントマンの仕事につく。ベルニーの助けもあってサミュエルは立派な父親になり、グロリアは元気で賢い子どもに育つが、サミュエルはクリスティンが赤ん坊のグロリアを捨てたことを娘に打ち明けられず、お母さんは政府の極秘エージェントだとウソをついていた。ところがある日、ひょんなことからクリスティンに連絡がつき、娘に会いに来ることに…

 心温まるコメディかと思って見に行ったら終盤けっこうシビアな展開で驚いたのだが、全体としては子どもっぽいところもあるがとにかく娘思いのシングルファーザーの苦労を手堅くまとめたお話だ。作り話やごっこ遊びが大好きなユーモアたっぷりのお父さんを描いているという点では『ありがとう、トニ・エルドマン』にちょっと似てるのだが、サミュエルはあそこまでふざけているわけではなく、オマール・シーの個性もあってけっこうカラっとしている。サミュエルがスタントマンなもので、スタントを使ったちょっと派手な展開もある。グロリアがクリスティンを学校に連れて行くときの台詞でベクデル・テストはパスすると思う。

 ちなみに全体的にBrexit前だから作れる映画だな…という感じで、人の移動がずいぶん自由だ。サミュエルは半日ロンドンに滞在するつもりで出かけてそのまま仕事を見つけていついてしまうのだが、イギリスがEU離脱したらこんな展開は無理だろう。なお、ロンドンにはフランス人がいっぱいいるという台詞があるのだが、たしかに私が学生時代に住んでいたケンジントン&チェルシーは大陸ヨーロッパ系、とくにフランス系がやたら多かったので、ご都合主義なようで実はけっこうリアルなところもある。サミュエルがフランスに8年も住んでいるのにほとんど英語ができないという設定はちょっと面白い。

 なお、この映画は子ども部屋の美術がけっこう面白く、可愛らしくまとめてある一方で持ち主の性格がわかるようにあんっている。いろんなデカいおもちゃがたくさん置かれており、父親のサミュエル自身が少し子どもっぽく、夢見がちな男であることを示唆しており、さらにレゴなどがたくさんあってグロリアの教育に関心があるらしいこともわかる。