初めての#StarringJohnCho~ウェブ文化を非常にきちんと取り込んだ『search/サーチ』(ネタバレ注意)

 『search/サーチ』を見てきた。

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 主人公のデイヴィッド(ジョン・チョー)は妻をリンパ腫で亡くした後、ひとりで娘のマーゴ(ミシェル・ラー、字幕では「マーゴット」となっていたが、皆「マーゴ」と呼んでいたと思う)を育てている。ところがある日、マーゴが家に帰ってこない。心配したデイヴィッドは警察に連絡し、自分でも娘のラップトップを開けてウェブを用いた捜査を始めるが…

 

 全編が「PC画面」で展開するという触れ込みだが、厳密に言うとスマートフォンの画面とか、テレビ中継の画面(一応、PCスクリーンに映っているという設定のようだが)になるところもあるし、終盤フラッシュバックで「記憶上にある画面」らしい画面になるところもある。ただ、スクリーン内で展開するわりには非常に動きがある作りになっているのは感心した。主人公のデイヴィッドがおそらく情報技術関係の仕事をしていてウェブカメラなどをしょっちゅうつけっぱなしにしている設定なので、役者の演技もけっこうきちんと撮られており、ジョン・チョーの心配する父親の演技はとても素晴らしい(ただしスクリーンをいじっている時間が多くてわりと会話が少ないため、ベクデル・テストはパムとマーゴの調理についての会話映像でかろうじてパスする程度)。 脚本がとてもよくできていて、たまにちょっと強引だな…と思ってしまうようなところもスピード感のある演出でカバーして見せてしまう。

 

 見た目は全部スクリーン内で展開するということで撮り方は新しいし、また主人公の一家が韓国系アメリカ人だということでアメリカ映画としては珍しい作品なのだが、一方で話は行方不明になった娘を探す父親というかなりオーソドックスな内容だ。この映画はよくヒッチコックと比べられているが、最近の見た目だけはヒッチコックに似ているけどどうってことないスリラー群に比べると、たしかにはるかにヒッチコックその他の古典的スリラーをよく消化してると思う。新技術を使って斬新な撮り方をしており、キャスティングも今までのアメリカ映画にはなかったようなやり方をしているが、展開はかなり古典的であるという点では『タンジェリン』に近いかもしれない。また、終盤で中継映像を入れたりして見た目が一本調子になるのを避けようとしているあたり、全編ファウンドフッテージ形式だが、途中から超能力でカメラを飛ばしたり、他の人が撮った映像を入れたりして映像がダルくなるのを防ごうとした『クロニクル』にも似ている。また、私は未見なのだが、教えてもらった情報によるとプロデューサーのティムール・ベクマンベトフの先行作『アンフレンデッド』もほぼ全編スクリーン上で展開するそうで、ちょっと見てみたいと思った。

 

 この映画のポイントとしては、2018年時点でのウェブ文化を非常にうまく取り入れているというところがあると思う。フェイスブックとかVenmoみたいな実在のサイトの扱いはもちろん、架空のサービスであるYouCastもまるで実在サイトかと思っちゃうようなリアルさで描かれている。またまたいろいろウェブ文化を意識したジョークが取り込まれているところも良い。たとえば、冒頭場面で出てくるこのマーゴの高校の写真、看板に"catfish"という文字が見えるが、"catfish"は英語で「オンラインで身元を偽る」という意味なので、たぶんジョークだ。

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 またまた、ジョン・チョーが主演のスリラーだという時点でネットミームを消化した作品だとも言える。以前、ハリウッド映画で東アジア系があまりよい役をもらえないという事実を皮肉る#StarringJohnChoというミームが流行ったことがあり、ありとあらゆるハリウッドのスリラーやアクション映画のポスターにジョン・チョーが入るコラがたくさん作られた。私のお気に入りはこれ↓なのだが、この映画はまさに#StarringJohnChoをそのまんま地で行くものと言える。初めてコラじゃなくちゃんとしたスリラーに主演できたジョン・チョー、本当によかった。

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