めったに上演されない珍しい芝居~ブラックフライアーズ座、A King and No King (配信)

 アメリカン・シェイクスピア・センターの期間限定有料配信で、ブラックフライアーズ劇場で収録された、A King and No King (配信) を見た。

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 フランシス・ボーモントとジョン・フレッチャー共作の芝居で、現在ではおそらくほぼ上演されない演目である。主人公のイベリア王アーバセス(ベンジャミン・リード)は妹であるパンシア(ゾーイ・スピアーズ)と愛し合ってしまう。さらに、アーバセスの捕虜であるアルメニア王ティグレイニス(ロナルド・ロマン=メレンデズ)は既に婚約者スパコニア(シルヴィ・デイヴィッドソン)がいるのに、講和条件として縁談話が持ち上がったパンシアに惹かれてしまう。ティグレイニスはひたむきに愛してくれるスパコニアのためにパンシアを諦め、一方アーバセスは自殺を考えるが、実は自分がパンシアと姉弟ではなかったという事実を発見して大喜びし、パンシアと結婚する。

 ボーモントとフレッチャーの悲喜劇というのは、あらすじだけだと真面目な話に見えるが、実はブラックユーモアやアホすぎて笑えるみたいなところも多い芝居で、このプロダクションも笑えるように作ってある。相変わらず装置などはほぼないが、衣類はわりと時代ものらしく、けっこう華やかだ。アーバセスは自信満々になったかと思うと落ち込んで自殺したいと言うなど、喜怒哀楽が激しく、わがままで欠点だらけの男なのだが、この芝居では子供っぽいがあまり悪気はなく、人間味のあるキャラクターとして面白おかしく描かれている。このアーバセスに茶々を入れる部下のマードニアス(KP・パウエル)は大変ユーモアのある役どころだ。

 また、スパコニアがティグレイニスの心を取り戻そうとする場面は、真面目に演出すれば健気な女性の深刻な嘆きの場面になるのだろうが、このプロダクションではスパコニアがお色気を満開にして鎖でつながれたティグレイニスに迫り、セクシーさにやられたティグレイニスの気持ちが全部もっていかれてしまうという笑える場面になっている。その後のこの2人はどうもドミナトリックスとサーバントごっこにハマってしまったようで、最後の場面で急に呼び出されて入ってくるところでは、このカップルはお互いの衣服を交換した状態で入場しており、どうやらお取り込み中だったらしいことがわかる。

 いくらなんでもかなり話が強引なので、あまり一般ウケはしないかと思うのだが、そうは言ってもとても楽しい上演だった。ボーモントとフレッチャーの作品はそんなには上演されないので、もっと見たい。