内容はいいが、プラットフォームが…ライシアム劇場『人生は夢』(配信)

 エディンバラのロイヤル・ライシアム劇場の配信でカルデロン・デ・ラ・バルカの『人生は夢』を観た。非常に有名な17世紀の作品で戯曲は読んだことあるのだが、観るのは初めてである。ジョー・クリフォードによる英訳を使用し、ウィルズ・ウィルソンによる演出である。

lyceum.org.uk

 主人公であるポーランド王子セヒスムンド(ローン・マクドナルド)は王国に危機をもたらし親を殺すという予言ゆえに幼い頃から山の中に幽閉されて育っていた。ポーランドの王位については、どちらも王位継承権を持っているいとこ同士のエストレリャ(ケルシー・グリフィン)とアストルフォ(ディファン・ドウィフォル)が結婚して継ぐことが計画されていたが、エストレリャはアストルフォが他の女性の肖像がついたロケットを身につけているらしいことに気をもんでいる。ポーランド女王バシリオ(アリソン・ピーブルズ、原作では男性の王)は一度息子にチャンスを与えようと考え、息子を眠らせて宮廷に戻し、王子であることを伝えることにする。ところが目覚めたセヒスムンドは長きにわたる幽閉の恨みが積もって穏やかな精神を失っており、エストレリャに一目惚れして横やりを入れた召使いを殺してしまう。さらにセヒスムンドは幽閉の時に一度、男装の姿で出会ったことがあるロサウラと再会し、ロサウラを強引に口説こうとするが、結局セヒスムンドは幽閉されていた塔に戻され、王宮での出来事は夢だったと思うようになる。家臣のクロタルド(ジョン・マコーリー)に夢の中でも行いを正さねばならないと言われたセヒスムンドはそれについて考えるようになる。民衆がセヒスムンドを担ぎ上げて反乱を起こし、実はアストルフォに捨てられた恋人であったロサウラも反乱に加わる。セヒスムンドとロサウラが勝利するが、結局セヒスムンドは母である女王を赦し、またロサウラはクロタルドの娘であることがわかってアストルフォはロサウラに求婚する。セヒスムンドは王位継承者としてエストレリャと結婚する。

 木の床の舞台を囲むようにお客さんが座るタイプの舞台で、客席と役者の距離がわりと違い。衣装はわりと現代的である。あまり道具類は使っておらず、シンプルでエネルギッシュな演出だ。

 人生は現実なのか夢なのか、人間と獣の境は何か、自由意志は運命に打ち勝てるのかというような哲学的な問いがテーマで、セヒスムンドの改心は予言、つまり迷信を退け、理性と自由意志により調和がもたらされることを表現している一方、セヒスムンドが自分を解放するために反乱を起こした首謀者を塔に監禁するというオチは、権力者らしく振る舞うというのはこれまでのセヒスムンドが耽溺していた無鉄砲な暴力性ではなく計画的な残酷さを身につけることなのだという皮肉な状況をもややコミカルな形で示唆しているように見える。セヒスムンドは幽閉され、人間らしく扱われていなかったために暴力的で人間社会に馴染めない人物となったが、クロタルドに夢について忠告を受け、また愛と名誉のために戦うロサウラから王子として扱われることで権力者らしく振る舞うという役割を身につけた。全体的に社会の中における自分の役割を学ぶことについての芝居である。

 プロダクションじたいは面白かったのだが、劇場が使っているCogplayerというプラットフォームがえらく使いにくい。まず、下にきちんとしたタイムバーが出ないので早送りも巻き戻しもできないし、どれくらいの長さの芝居でどのくらい自分が見終わったのかもわからない。さらに音量コントロールがないので、音が小さいところでも調整できない。もうちょっとわかりやすいプラットフォームを使って欲しいと思った。