「息子」としてのソフィ・マルソー~『すべてうまくいきますように』(ネタバレあり)

 フランソワ・オゾン監督の最新作『すべてうまくいきますように』を見てきた。既に何度かオゾンと一緒に仕事をしているエマニュエル・ベルネイムによる自伝的な小説の映画化である。

www.youtube.com

 エマニュエル(ソフィ・マルソー)はそろそろ85歳になる父のアンドレアンドレ・デュソリエ)が急に脳卒中で倒れたという知らせを受ける。エマニュエルと妹のパスカル(ジェラルディーヌ・ペラス)はかいがいしく父親の見舞いに行くが、アンドレはエマニュエルに安楽死したいという意志を伝える。ショックを受けつつ、エマニュエルはスイスでアンドレの希望通り安楽死ができるよう、手配をする。

 フランスで尊厳死の話というと『92歳のパリジェンヌ』があり、スイスで尊厳死というと『世界一キライなあなたに』がある。いずれも尊厳死を選ぼうとする人がかなりの頑固者なのだが、ガチフェミニストがヒロインの『92歳のパリジェンヌ』や、わりと甘ったるいロマコメだった『世界一キライなあなたに』に比べると、今作のアンドレはずば抜けて問題のある父親…というか、わがままだし子どもたちに対する思いやりもあまりないし、依怙贔屓はするわ、秘密にしたほうがよさそうなことをホイホイ人に言うわ、とんでもない困った親父さんである。さらに終盤はこの父親の軽挙のせいでフランスの警察に一家がにらまれてしまい、司直の目を盗んで父親をスイスにこっそり送り出すという犯罪スリラーみたいな展開になる。

 本作で面白いのは、ソフィ・マルソーの「男らしさ」みたいなものが引き出されていることだ。アンドレは大変困った人で、クィアな色男であり(たぶんゲイだと思うがバイセクシュアルかもしれない)、しばらく別居して病気を患っている妻クロード(シャーロット・ランプリング)も、中年の愛人でこれまた大変困った人であるジェラール(グレゴリー・ガドゥボワ)もアンドレに夢中だし、娘たちもこの駄目な父親の面倒をどうしても見てしまう。そんなアンドレはどうもエマニュエルが一番のお気に入りで、冗談まじりに自慢の息子だとか言ってエマニュエルを可愛がっている(最初に生まれた息子は死産だったらしい)。エマニュエルはボクシングやゴアっぽいホラーが好きで、わりと地味な色の服を洒脱に着こなしており、アンドレにとってはたぶん「男らしい」子どもである。ソフィ・マルソーというとかつてのアイドルで可愛くてゴージャスという印象が強いが、オゾンは本作でソフィ・マルソーのちょっと中性的な感じというか、一般的に女性らしいと言われるゴージャスな女性の「男っぽさ」みたいなものを引き出し、ある種のクィアなヒロインを作ろうとしているように見える。