『カリギュラ 究極版』を見て来た。元のバージョンは未見で、今回初めて映画館で見た。
『ペントハウス』社長ボブ・グッチョーネ製作のまあ一応「自主映画」で、ティント・ブラス監督、ゴア・ヴィダル脚本でローマ皇帝カリギュラ(マルコム・マクダウェル)の乱暴狼藉と腐敗を描く歴史大作…になるはずだったらしいのだが、製作中にトラブルが頻発してかかわった人の大半が不満だらけになって製作終了した、というようないわくつきの作品である。後で出演者や監督などに無断でグッチョーネが勝手にハードコアポルノシーンをくっつけたというような話があり、これは話題作りのためにだいぶ誇張しているのでは…という気もちょっとするのだが(『ペントハウス』社長が作ってるならエロ満載のスキャンダラスな映画になるのは最初から織り込み済みだったのでは?)、とはいえプロデューサーの強引な介入やらクリエイター同士の仲違いやらで脚本家も監督も俳優も話が違うということで怒っていたのは本当らしく、主演のマクダウェルは映画がメチャクチャにされたと大変おかんむりだったそうだ。マクダウェルは、この新しく発掘したフッテージを使って全面的に編集し直した「究極版」が自分が出ていると思っていたティント・ブラスの映画に近いということでお喜びだそうである(マクダウェルは気難しそうな人だと思うので本人もセットでもめごとのたねを作ってたんだろうという気はするのだが、個人的に高く評価している俳優でもあり、また役者の職業上の尊厳が軽視されるのは非常によろしくないと思うので、主演スターが満足できるバージョンが作られたというのは役者の労働に報いるという点からすると大変よいことだ)。
最初の版は見ていないのでよくわからないが、少なくとも究極版はカリギュラ(マクダウェル)がローマ皇帝としてどんどん堕落していく様子を描いている歴史大作である。若いカリギュラは妹のドルシラ(テレサ・アン・サヴォイ)と近親相姦の関係にあるのだが、双方非常に愛し合っているため、当代皇帝であるティベリウス(ピーター・オトゥール)のご乱行ぶりに比べるとまあかわいいもんで全然悪いことをしていないように見える(このティベリウスの話はどぎつく撮ってはあるがスエトニウスとかを一応ベースにしているとは思われる)。ところが権力の座につくとだんだん異常になり、結婚式にのりこんでいって新郎新婦の両方を強姦するという極悪な行為をはたらき、最後は暗殺されてしまう。大変面白いというわけではないが、まあ権力を諷刺しているということでやりたいことはわかるし、けっこう編集が変なところは多いものの、そこそこちゃんとした映画ではある。
全体的に70年代のエクスプロイテーション映画っぽいセンセーショナルな撮り方なのだが、賢くはないが別に極悪ではなかったリッチなぼんぼんが権力の影響でどんどん堕落して悪辣になる様子を描いているという点で、話じたいは最近の『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』にそっくりである。カリギュラはホンモノのドナルド・トランプよりはちょっとばかりハンサムかもしれないが(まあセバスチャン・スタンもハンサムだけれども)、かなり展開は似ている。そう考えるとまあ『アプレンティス』のほうがだいぶまとまりのあるよくできた映画だな…という気はする。もとの版はこれより性描写や残虐描写が多かったそうで、このバージョンでも既にエロが多すぎて話の展開がわかりにくくなっている気はするので(フッテージが不足してるとかいうのもあるからだろうが)、どれだけわかりづらい話だったんだろうか…と思ってしまった。なお、若きヘレン・ミレンが皇妃カエソニア役で出ているが、ミレンはピーター・ブルックとアフリカで仕事していた頃、キャリアチョイスとしてセックスシンボルになるか(たぶんダイアナ・リグの系統か?)舞台の大女優になるか迷っていた時期があるそうで、その頃の作品なんだろうなーと思った。
