わりとイマイチ、そして翻訳があまり良くない〜ルーシー・ワースリー『暮らしのイギリス史:王侯から庶民まで』

 ルーシー・ワースリー『暮らしのイギリス史:王侯から庶民まで(NTT出版、2013)を読んだ。

暮らしのイギリス史―王侯から庶民まで
ルーシー・ワースリー
エヌティティ出版
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 イギリスの歴史的王宮博物館群(Historic Royal Palaces, つまりケンジントン宮殿、ロンドン塔、ハンプトンコート宮殿、キュー宮殿、バンケティングハウス)の学芸員の人が書いた本で、寝室、浴室、居間、台所の四つに分けてそれぞれにまつわる道具とか習慣の歴史を書いたものである…のだが、ひとつひとつのテーマに割かれているページが少なく、それこそ美術館のパンフに書いてあることを全部まとめました、みたいな感じでやや散漫な印象を与える。あと、宮殿の学芸員だけあって家屋で使う調度品とかそういうことについては大変詳しく面白いのだが、性的なことがらとかについてはやや記述が浅く、スキャンダラスなところばかり持ってきていてあまりおもしろくない気が…

 ただ、面白い資料を紹介しているところは結構あり、とくに1748年に出たらしい最初期の英語のゲイポルノグラフィ、A Spy on Mother Midnight: Or, the Templar Metamorphos'd. Being a Lying-In Conversationとかの紹介は興味深かった。これ、男性が女装して男子禁制の産院に潜入する話らしいのだが、なんでそれがゲイポルノになるのか今の感覚では全然わからん…なにかマニアックなことが書いてあるのかもしれないので読まないとわからないが、読む気はない。


 ただ、本文よりは翻訳が良くないのではないかと思うところもいくつかあった。たとえばp.30に「国王ジョージ二世の王妃キャロラインは、首相であるサー・ロバート・ウォルポールとの肉体関係をつつみ隠そうとはせず」という文章があり、あれっと思って原文を確認したら'Queen Caroline, wife of George II, would openly discuss her sexual relationships with the prime minister, Sir Robert Walpole'(pp. 26-27)で、これ「国王ジョージ二世の王妃キャロラインは、自分の性関係について首相サー・ロバート・ウォルポールとオープンに話し合っていた」、つまりキャロラインはウォルポールと不倫してたんじゃなく性生活についてフランクにウォルポールと話していた、という意味だと思う。この他、p.25でメアリー・オブ・モデナが「メアリー・オブ・モデラ」になっていたり、人名等の校正ミスと思われる誤植がわりとあるので、ちょっと気をつけたほうがいいかも。

 ちなみに、これ系の本だと最近読んだ村上リコ図説 英国メイドの日常』(河出書房新社、2011)のほうが、タイトルは軽いけど中身が二段で豊富な図版とともに19世紀〜20世紀はじめの使用人の暮らしぶりを詳述していて、これくらいテーマをしぼって手厚く書いたもののほうが参照する上では使いやすいし面白いと思う。