日本支配下の古書取引を追う〜『植民地時代の古本屋たち―樺太・朝鮮・台湾・満洲・中華民国 空白の庶民史』

 沖田信悦『植民地時代の古本屋たち―樺太・朝鮮・台湾・満洲中華民国 空白の庶民史』(寿郎社、2008)を読んだ。

 日本の植民地だった地域のどういう都市にどういう日系古書店が出店していて、どういう取引をしていたのかをひたすら追った労作。著者は学者ではなく古書店主で、アカデミックな分析はないのだが、コネを使ったり古書店業者お得意の資料アクセス技術を使ったりしていろいろな一次史料を探し出してくるあたりはふつうの研究書とはまた違った味わいがあって面白い。地図や表などを使ってどこに何という店が出店していたのか、詳しく解説してくれている。

 面白いのは植民地の古書商売というのがけっこう内地よりも後まで栄えていたらしいことである。樺太古書籍商組合が全国古書籍組合連合会に加入したのはアッツ島が玉砕した後だとか(p.10)、1943年に東京から樺太に買い付けに出かけた古書商がいてけっこうな利益をあげてたとか、どうも書籍関係の経済統制が内地よりも遅れていて緩く、思ったより商売にゆとりがあったらしい(p. 25)。またまた満州建国当初はマルクスとかを売ることができたそうだが、だんだんと左翼本の統制が厳しくなったのだそうだ(p. 102)。戦争末期になると満州は統治者がソ連軍→中共軍→国府軍とどんどん移り変わったのでそのせいで売れ筋も変わったとか(p. 172)、そんなすごい状況でも商売してたんか…と思うような記述もある。

 後書きにあるように、言語の壁のせいで当時の現地の方々の古書店まで調べが及ばなかったのは残念なところだが、古書なんていうあまり生活に関係なさそうな商売がどんどん植民地に出て行っていたという話がわかるだけでもこの本は面白い。