変化球だが、原作のこころを生かした翻案〜『リトルプリンス 星の王子さまと私』(ネタバレあり)

 『リトルプリンス 星の王子さまと私』を見てきた。マーク・オズボーンが監督したアニメ映画である。フランスで作られた作品だが、音声は英語で(それなのに出てくる『星の王子さま』のテクストがフランス語ですごい違和感あるんだが)、声優としてそうそうたる俳優が参加している。

 サン=テグジュペリの『星の王子さま』の翻案なのだが、さすがにこの作品をそのまんまアニメ化するのは難しかったようで、『星の王子さま』を書いている元飛行士のおじいさん(サンテックスは40代で戦死しているのでサンテックス本人ではないのだが、名前がないのでかりにサンテックスじいちゃんとしておこう)と、ひどく抑圧的な母親に分刻みのスケジュールで管理されている女の子を軸に、劇中劇としての『星の王子さま』と、物語によって自由な精神と思考を手に入れた女の子の冒険を並行して描く作品になっている。

 まずは映像がけっこう面白い。サンテックスじいちゃんと女の子のパートはなめらかなCGなのだが、『星の王子さま』のパートはざらざらしストップモーションアニメで、質感がものすごく違う。ストップモーションの砂漠とCGの庭を見比べるだけでなんだか二倍得したような気分になってしまう。

 話のほうは、よかれと思って娘に対してひどいことばかりしていまう母(この母もどうも離婚のショックでシングルマザーになってからおかしくなったみたいでかわいそうな人ではあるのだが)の抑圧と、物語の力による娘の解放を描いていて、ものすごくストレートに想像力によって人間が自由になれること、芸術が人の心を解放することを描いたたいへん理想主義的な作品である。もともと『星の王子さま』じたいがイマジネーションの力に関する作品なので、そのポイントをとてもうまく生かして翻案していると思った。ちなみにキツネの声はジェームズ・フランコがやっているのだが、キツネと王子さまのくだりは不覚にも泣けてくる。

 ちなみに『星の王子さま』は大人のための児童文学とか言われることも多いようだが(ここからネタバレなので注意)、実はこの映画はけっこう『インセプション』に似ている。なんかバラの声が妙に色っぽいなと思ったらマリオン・コティヤールで、映画の後半はバラのことを忘れてしまった王子さまがこのバラのもとに帰ろうとするが、実はバラは失われていて…という展開になるからである。話がふたつの層になって最後は夢の物語になるところといい、忘却の淵にはまった王子さまがマリオン・コティヤールのところに戻ろうとするところといい、まるで『インセプション』だ。よく考えると王子さまとバラの関係はずいぶんとシビアな話である。

 なお、この作品はベクデル・テストはパスする。母と娘が勉強とかスケジュールとかいろんなことについて話をするからである。