撮り方は凄いが、話はあんまり好みではなかった〜『たかが世界の終わり』

 グザヴィエ・ドラン監督の最新作『たかが世界の終わり』を見てきた。

 場所も時期もあまり特定されていないフランス語圏のどこかで、ゲイの劇作家ルイ(ギャスパー・ウリエル)が久しぶりに里帰りする様子を描いた作品である。ルイは死に至る重病にかかっていてこれを家族に伝えるため帰ってきたらしいのだが、10年以上家族をちゃんと会っていないらしい。帰宅したふるさとの家には、喜んでハイテンションになる母マルティーヌ(ナタリー・バイ)、幼い頃に兄と別れた若い妹シュザンヌ(レア・セドゥ)、やたらイライラしている兄アントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)、その妻でルイとは初対面のカトリーヌ(マリオン・コティヤール)がおり、ルイとかみ合ったりかみ合わなかったりする会話をするが…

 撮り方とか細かい演出は本当に凄い。役者の微妙な表情をうまくとらえた長いクロースアップとか、台詞がない時間の微妙な間の使い方とか、映像としてとても完成している。美術も行き届いていて画面も綺麗だし、役者陣は全員、物凄い実力派なので、監督のヴィジョンに合う感情的で張り詰めた演技を余すところなく披露している。

 とはいえ、話じたいは個人的にあまり面白いと思わなかった。後期のヘンリー・ジェイムズみたいなポイントの特定を避ける展開にハロルド・ピンターをちょっと思わせるようなキツい感じの会話が組み合わさったような映画で、趣味ではなかった。たとえばルイの病気が何だかわからない(ガン?ちょっと前の設定でエイズ?)あたりはジェイムズの『鳩の翼』を思わせるし、ルイと家族がなぜこんなに疎遠になったかとかもほとんど描かれない。またアントワーヌがひどいモラハラ男でなんでここで怒るのっていうところで怒るのだが、これはリアルといえばリアルなんだけど(こういう人いるよな…とは思う)、見ていて不愉快になるので面白いかというとそうでもなかった。なお、ベクデル・テストはちょっと微妙で、マルティーヌの身支度についての会話をどう判断するかがちょっと問題なのだが、ほとんど息子のことだったのでパスしないのではと思う。