8人のヤバい女たち〜『オーシャンズ8』(ネタバレあり)

 『オーシャンズ8』を見てきた。

 主人公は『オーシャンズ11』シリーズのダニー・オーシャンの妹デビー(サンドラ・ブロック)。優秀な泥棒だが、男絡みの失敗でしばらく刑務所に入っていた。仮出所してすぐ、元の相棒ルー(ケイト・ブランシェット)と組んでメットガラを狙う大きなヤマを計画するが…

 話にとくに新しいところがあるとかいうわけではないし、いくつか辻褄がおかしいところもあるのだが、とにかく女性たちがゴージャスで自立していて大活躍な楽しい犯罪ドラマである。デビーとルーの間には驚くようなケミストリがあり、一緒にいるところが画面に映るだけでセクシーすぎて頭がぼーっとしそうだ。デビーが考えている盗難計画には最低でも7人が必要だというのでメンバーを探すのだが、この犯罪者リクルートプロセスは『七人の侍』方式で、必要な技能を持ったメンバーを必要なだけスカウトする。ここでリクルートされるのは侍ではなく全員女性、しかもいろいろとヤバい女性たちで、これはデビーが男は女を無視したりするので信用できないと考えているからだ。そういうわけで落ち目のアイルランド人デザイナーであるローズ(ヘレナ・ボナム=カーター)を手はじめに、実家を出て自立したい宝石細工師アミータ(ミンディ・カリング)、天才ハッカーナインボール(リアーナ)、子育てに専念していたタミー(サラ・ポールソン)、スリの達人コンスタンス(オークワフィナ)が加わり、メットガラに出席するちょっとウザい感じのハリウッドスター、ダフネ(アン・ハサウェイ)の宝石を狙う。この女性たちがみんな生き生きしていて有能で、女性であるダフネをカモとして狙うにもかかわらず女同士でいがみあうみたいなイヤな感じがない(ベクデル・テストは完全にパスする)。デビーが決行前に「将来犯罪者になりたいと思ってる女の子のロールモデルになるつもりで頑張れ」というようなことを全員に言うのだが、まあよく考えるとこの盗みが大成功すれば犯人の身元は誰にも知られないはずなので将来犯罪者になりたいと思ってる女の子には届かないはずだからこの台詞はおかしい…のだが、見ていて実にアガる。

 全体としてはとにかく楽しい作品だったのだが、一箇所不満があるのは、メットガラでダフネがティアラなどのヘッドドレスをつけていなかったことである。メットガラのテーマがヨーロッパの王室なのだが、ダフネは目立ちたがり屋でキラキラしたものが好きな性格だし、ドレスは首飾りを目立たせるためけっこうシンプルなものなので、あの衣装なら絶対に女王様のようにキラキしたティアラなどのヘッドドレスが必要だと思う。衣装全体のまとまりとしては、むしろローズが着ていたメルヘンチックで派手なドレスのほうが綺麗だったと思う。序盤ではショーがうまくいかずにヌテラを瓶からやけ食いしていたローズだが、メットガラの場面では自作の素敵なドレスを着て実に自信に満ちたデザイナーぶりを示すのが良かった。

 なお、一箇所字幕に不満があった。デビーが仮釈放面談で"the wrong person"に引っかかったから刑務所に入ったのだと言っているのだが、字幕ではこれは「悪い男」となっていた。表面的にはこれはデビーを騙したかつての恋人クロードを示すのだが、英語の原文では性別が明示されていない。私の深読みでは、デビー自身は女性であるルーのことを考えているから無意識にこんなワードチョイスをしているのではないかと思う。クロードはたいした男じゃないが、ルーは明らかにいい意味でも悪い意味でもヤバくてデビーの人生に大きな影響を与える人間だからだ。