社会が公正でないところでは個人間でも虐待がはびこる~『パピチャ 未来へのランウェイ』

 『パピチャ 未来へのランウェイ』を見た。ムニア・メドゥール監督によるアルジェリア映画である。

papicha-movie.com

 1990年代の抑圧的なアルジェリアを舞台に、ファッションデザイナーを目指すヒロイン、ネジュマ(リナ・クードリ)の努力と挫折を描く物語である。ネジュマはジャーナリストである姉リンダ(メリエム・メジケーン)が暗殺されたのをきっかけにハイクという白い布を使った伝統的な衣類を用いたファッションショーを企画するのだが、女子寮でショーをするというだけで暴力的な妨害に遭う。

 とにかくどんどん状況が悪くなっていく過酷な映画である。ネジュマたちはやりたいことをやろうとしているだけなのに、「女にふさわしい」全身を覆った地味な服装を強要するチラシが大学に張られるようになり、行動が制限され、さらには殺人レベルの暴力が日常的に起きるようになっていく。犯人はきちんと裁かれず、法が女性を全く守らない。そして社会が女性を守らなくなっていくにつれて、男たちがどんどん女性に対して無礼で暴力的に振る舞うようになっていく。ネジュマの行きつけの生地屋や大学の守衛の振る舞いが一番露骨だが、一見ものわかりが良さそうだったネジュマのボーイフレンドであるメディー(ヤシン・ウイシャ)が権威主義的な発言をするようになったりするあたり、社会が男にそういう振る舞いを許すからそうなるのだ、ということがよくわかるようになっている。全体としてすごくつらい作品だし、ちょっと展開や撮影に滑らかさがないところもあるのだが、全体としては抵抗の精神の重要性が非常に明確に描かれた作品である。