もう少し着るものの撮り方にこだわりが欲しい~『オートクチュール』

 『オートクチュール』を見てきた。

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 引退間近のディオールのベテランお針子エステル(ナタリー・バイ)は、自分のバッグをひったくった犯人のひとりであるジャド(リナ・クードリ)の手先の器用さに目をつけ、見習いお針子として技術を教えることにする。エステルはサン・ドニの貧しい家庭出身で反抗的なジャドに手を焼くが、長年の不養生がたたって糖尿が悪化してしまう。エステルの最後のファッションショーは無事終わるのか…

 『パピチャ 未来へのランウェイ』に続き、リナ・クードリがファッションを志す若い女性を演じる作品である。クードリ演じるジャドはアラブ・北アフリカ系だった父親とは会ったこともなく、一緒に暮らしている母親とは関係に問題があり(母親の面倒を見なければならない)、貧しくその日暮らしをしていたのだが、エステルと出会ってものを作る楽しさに目覚めて変わっていく。エステルは仕事に打ち込みすぎて一人娘と疎遠になってしまっているのだが、ジャドと擬似的な母娘関係を築くことで人生を見つめ直すきっかけができる。とにかくエステルもジャドも自己主張が強くてけっこう人格に問題があると思われるところもあり、口汚いしすぐ怒るしカッとなると差別発言するし、気まぐれでもある。そういう似たもの同士の2人が互いに影響しあい、成長しあう様子を見せるということで、バイとクードリの演技を見るのがメインというような作品である。

 ただ、この2人の関係以外のところはわりと手薄だ。『シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち』に出ていたロマン・ブラウがトランス女性セフォラの役で出ており、トランス差別などもさらっと出てくるのだが、ちょっとさらっとしすぎていてあまり掘り下げられていない。また、東アジア人女性に対する差別発言も出てきたりするのだが、ここもさらっと出てくるだけで投げっぱなしみたいな感じになっている。一番気になるのは服飾の映画なのにあまりドレスの撮り方などにこだわりが感じられないことである。もっと職人的こだわりとかデザイナーとの折衝とかを見せてもいいと思うのだが、そのへんはあまりやっていないと思う。また、出てくるドレスじたいもわりとあっさり見せるだけで、細かいところの綺麗さをしつこく撮るというようなところがあまりない。専門家の監修がついたディオールのアトリエが舞台の映画というなら、そのへんはもうちょっと華やかにしてもいいと思うのだが…