映画界を舞台にした演出~パリ・オペラ座バレエ・シネマ『シンデレラ』

 パリ・オペラ座バレエ・シネマ『シンデレラ』を見た。2018年の上演で、ルドルフ・ヌレエフ振付のものである。www.culture-ville.jp

 映画界を舞台にしたもので、王子(カール・パケット)は映画スターになっている。シンデレラ(ヴァランティーヌ・コラサント)を助けてくれるのは妖精の代母ではなく、プロデューサー(アレッシオ・カルボーネ)だ。キングコングとかチャップリンとか、いろいろ初期の映画にかかわるネタが出てくる。映画ネタの『シンデレラ』はこの間のオペラ版『チェネレントラ』でもやっていたので、この手の気の毒な若い女性が急に成功し…という物語では使いやすい題材なのかもしれない。

 王子役のパケットの引退公演らしいのだが、たしかに王子がいかにも映画スターらしい華やかでカッコいい風貌で、そこはとても良かった。森英恵が担当している衣装も綺麗だ。時計の場面では時間を表すダンサーがひとりひとりいて、鐘の後のたびに倒れていくあたりがちょっとふつうの『シンデレラ』と違って面白い。ただ、全体的に華麗な映画の世界というネタとおとぎ話があんまりしっかりかみあっていないようなところもあり、その点、ちょっとメタな作りだったこの間の『チェネレントラ』のほうが演出の整合性という点では良かったかも…という気はした(あるいはアッシュランド版の『十二夜』とかも方向性が似ていたが処理が上手だったかもしれない)。それからこれは完全に個人的な趣味なのだが、ワインスティーン事件の後だと、いくら善意でもプロデューサーがいろいろと不遇な美女の成功をお膳立て…というのはちょっと職権乱用感があって、そこもあんまりのれなかった一因かもしれない。