めったに見られない短編2本~『出られないふたり』&『月が昇れば』

 レディ・オーガスタス・グレゴリー『出られないふたり』&『月が昇れば』を配信で見た。「アイルランド発 対立と融和をめぐるモノガタリ」シリーズのAプロで、三輪えり演出である。短編2本を続けてやる形の公演で、いずれもめったに見られない作品が見られるよい機会である。

 『出られないふたり』は救貧施設に収容されており、ケンカばかりしている昔なじみの2人の老人、マイク・マキナーニー(須田真魚)とマイケル・ミスケル(菊沢将憲)の話である。ベッドであまり動けないような状態だが、口は達者だ。ところがマイクのところに妹のドノフー夫人(藤田三保子)が訪ねてきて兄を引き取ろうとする。喜んで行こうとするマイクだが、マイケルがかわいそうになり、一緒に連れて行ってくれと頼む。ドノフー夫人は断固拒否し、結局マイクも引き取ってもらえなくなる。

 老人のドツキ漫才みたいなやりとりと絆を面白おかしく描いた少々ブラックユーモアのある喜劇である。登場人物があまり動けない体にガタがきたおじちゃま2人というのはサミュエル・ベケットにつながるところがある気がするが、とはいえベケットに比べるとだいぶ素朴である。オチは読めるが、笑えるところはたくさんある。

 『月が昇れば』はアイルランドの警官と歌手のやりとりを描いた作品で、けっこう臆面もなく愛国的な作品である。歌手役にちゃんとオペラ歌手の大山大輔を起用しているところは良いのだが、警官の服装とか帽子がモダンすぎるのとちょっとアメリカっぽいのが気になった。あと、おそらく劇中で使われている歌は当時の人はどういう歌だかある程度わかっていたのじゃないかと思うのだが、現代日本の観客にはほぼわからないというところが厳しいかもしれない。なお、この作品はなんでもジョン・フォードが映画化しているらしいというのを初めて知った。

 

RISING OF THE MOON

RISING OF THE MOON

  • Warner Archive
Amazon